「親鸞聖人とは、人生の節目になんか因縁があるんです。だから今回のお話も“あぁ、きたか”って……。深いご縁を感じました」──歴史アニメ映画で親鸞聖人役を演じることになった心境を、杉良太郎(80才)はこう語った。2025年2月に劇場公開予定の『親鸞 人生の目的』で主人公・親鸞聖人の晩年の声を務める。8月22日には都内でアフレコの公開収録が行われた。
「80代の親鸞聖人役のオファーをいただいた時、自分はまだ79才だった。ところがスケジュールが延びて、80才になった直後に制作が始まったんです。これもえらい因縁だなぁと。私のお墓は築地本願寺の分院にあります。生前に妻(伍代夏子)とのお墓を建てたんです。築地本願寺は親鸞聖人を宗祖と仰ぐ、浄土真宗本願寺派の寺院。舞台の稽古場としても築地本願寺のホールに長らく通っていて、訪れたのは数知れない。そんな個人的な想いがあって、どう演じられるか悩みましたよ。“どこまでできるだろう”と余計な気負いもあった」
普段のスーツ姿ではなく、羽織袴の正装でマイクの前に立った杉。
「スーツでは親鸞聖人を演じられないと思ったんです。気持ちとしてね。役作りとして親鸞聖人にどう近づけるかといったら近づけないし、自分との共通点を見出すのもおこがましい。どうしたって比べて、というのは無理なんです。あまりに難しい役だけれど、自分なりにやるしかないと腹をくくりました」
本作は高森顕徹さんの著書を原作とした劇場版アニメで、『なぜ生きる-蓮如上人と吉崎炎上-』(2016年)、『歎異抄をひらく』(2019年)に続く親鸞シリーズの第3弾。最新作となる『親鸞 人生の目的』では出家前の8才から晩年までの親鸞聖人の生涯が描かれ、この日は、僧侶の身でありながら女性(関白・九条兼実の娘、玉日姫)に恋焦がれる心の内を吐露するシーンが収録された。
「僧侶が鴨川の河原でデートするなんてまぁ、鎌倉時代には考えられない。そんな、僧侶の妻帯が許されていなかった時代に結婚を決行している。生涯、煩悩まみれですよ。そこが非常に人間らしくて、いいなって。パツッと断ち切って“はい、煩悩はさようなら”なんてことができるのは、神の域。神様は、絶対にわれわれの手が届かない高みにいらっしゃる。
自分は社会福祉活動をしながら、“人間は煩悩をすべて振り払うことができるのか”“どうしたら”といつも、いつも考え続けてきた。親鸞聖人は『煩悩あるがままで救われる』と説く法然上人との邂逅で救われましたが、われわれの人間社会ではもがき苦しんだというだけできっと十分だろう。そう感じました。この作品は『なぜ生きるか』を問いかけている。重たいテーマです」
そう語り、杉は65年に及ぶ社会福祉活動を振り返った。
「重度の障害を持つ人の施設を訪ねて、自ら選んだわけではなくそうした人生を送る人に“なぜ生きるか”“あなたの人生の目的は”と問いかけることができるのか。それは相手に問いかけるものではなく、自分の頭で考えるもの。目の前の人はどんなことで笑顔になるのかな、幸せを感じるのかな、嬉しいと感じるのはどんなことかなと、想像を巡らせる。要求されないならば、こちらが考えて差し出すのがしかるべき。そうした葛藤を絶えず抱えて活動してきたし、人間の本質はそうした行いに表れると考えている。
戦争や貧困、災害など様々な理由で、世界にも日本にも、今この瞬間に悠々と生活できていない人はたくさんいます。恵まれた境遇にいると他人の不自由さがわからなくなるけれど、かといって、決して目を背けてはいけない問題です。自分のテーマとして考え続けてきたことも重なって、今回の親鸞聖人役はただアニメの出演依頼があって声で出演しました、とは到底考えられなかった」