若者に「一歩踏み出す」大切さを届けたい
フットワーク軽く積極的に、という姿勢はプライベートでも変わらない。家電ショップで新しい機材をチェックしたり、SNSで若い同業者とやりとりをしたりは日常茶飯事。山川さんのもとには「ボカロP」をはじめとする若い世代の音楽家が多数集まる。
「時代に合った音というのはあるので、常に感性をアップデートし続けないといけないですし、そもそもクリエイティブな現場では、年功序列ってないんですよ。10代20代の音楽家と横並びで仕事をして、“なんか古い”ってなったら振り落とされちゃうだけですから。でもそれとは別軸で、これまで培った歴史だったり、昔の良いところは若い子たちにもどんどん伝えるべきだと思っています。
たしかに若い子たちと我々では、新しいテクノロジーに対する吸収の仕方が全然違いますけど、幸いなことに、我々が新しいものを取り入れられない環境にいるかというと決してそうじゃない。私はもともと新しいもの好きなので手を出すタイプで、若い子に教えてもらったり逆にこっちが教えたりしながら刺激を受けています。例えば音楽ストリーミングサービスのSpotifyで配信するときは、ジャケットの見え方がCDとは違うからデザインを工夫したり、長く仕事をするうえで未知のことを楽しめるのは必要なスキルかもしれません」
そんなフランクな山川さんだからこそ、若い世代からよく相談を持ちかけられるという。
「みんな『失敗が怖い』って言うんですよ。音楽は好きだけどやるのが怖い、失敗したときを考えちゃって一歩が踏み出せないって。たしかにその不安はわからなくはないですよ。先が見えなさすぎるこの仕事って博打みたいなものですから。私自身も行けるところまで行こうという気持ちと、いつでもやめていいっていう2つの感情を持ちながらやってきました。
だけど後から振り返ってみると、失敗こそ学びなんですよね。現場で失敗するほど身につくし、なおかつその後の伸びがすごいですから。だから若い世代には失敗してもいいから一歩踏み出してほしい。それにもし一歩が間違っていてもたいしたことないんですよ。傷も浅いしすぐ引き返せる、なんとでもなるって伝えたい。
私もこれからまた一歩、新たな道に足を踏み出そうとしています。これまでは自分がメインで歌うことをほぼやっていませんでしたけど、自分の歌をセルフカバーしたコンピレーションアルバムを出すことを“ライフワーク”にしたくて。4年ほど前から考えていたことなんですが、ストリーミングのノウハウや再生アプリごとに変わるアートワークも担当できるくらいスキルが身についたので、いまがその時かなと思い、6月から配信を始めました。
よくこの本やアルバムがキャリアの集大成ですか?と言われるんですけど、全然そのつもりはなくて。これからも果敢に攻めていきたいと思っています」
取材・文/辻本幸路