男性は、日常的にパソコンを使い、SNSの利用歴も10年以上に及ぶ。したがって、SNS上で繰り広げられる各種詐欺の手口については、ある程度は理解しているつもりだった。このユーザーとのやり取り中にも、事前知識によって「詐欺の可能性がある」と慎重だったが、先方から「ほぼ裸」の写真を送られたことで、男性の思考は停止してしまった。
「SNSでもよくあるのが、人のSNSからパクってきた女性のセクシーな写真を使って男を騙すという手法です。しかし、私の相手が使っていた写真はそうとは思えなかった。なぜなら、私が着物が好きだというと、着物姿の写真を送ってきてくれたからです。これはなりすましじゃないと思ってしまった」(自営業の男性)
すっかり「相手女性」が実在すると信じ込んでしまった男性は、そのユーザーとやり取りを続けた挙句、共同出資で「ネットショップ」を開設するという約束をしてしまう。共同経営のショップで金儲けをして、2人で幸せに暮らそうと男性は吹聴されていたのだ。
「もう、完全に実在女性だと思ってしまっていました。相手は、私が希望するようなセクシーな写真をバンバン送ってくるため、こちらも興奮してしまい、自分も全裸の写真などを送ってしまった。その後、お願いされた出資金額があまりに多すぎ躊躇していると”あなたの写真を公開する”と態度が豹変。バラされたくない一心で、要求されるがまま3万円分の通販のギフトカードを10回以上送ってしまった。手持ちの金がなくなり、いよいよやばいと思って警察に駆け込みました」(自営業の男性)
しかし男性も、やはり門前払いを食らってしまった。
「一応、被害届は受理してもらいましたが、犯人は海外の組織だろうから捜査は難しいと渋られました。ネットショップを開設すると言われ、免許証の写真など、私の個人情報も相手に渡ってしまっているので、お巡りさんが見回りに来てくれたこともありました。ありがたいことですが、自分のバカさ加減に呆れるばかりで、誰にも打ち明けられず自信がなくなった。自宅がバレており襲撃される不安もあるので、間も無く家も会社も引っ越す予定です」(自営業の男性)
恥ずかしい自撮りをしてしまったこと、それをSNSで女性に見えるユーザーへ送ってしまったこと、そのユーザーと下心をもってやりとりしていたことすべてが被害を訴え出ることをためらわせるのだろう。そして、いったん送付してしまったデジタルデータが悪用される可能性が消えないため、いつまでも被害者心理を揺さぶる。
被害者が「言い出せない」ために、無かったことにされている男性、しかも中高年男性の「セクストーション」被害は、実際にどれくらいの件数なのか判然としない。被害者も下心が前提で起きたことだけに警察はもちろん、友達や家族にも言いづらいし、打ち明けたら責められることもあるだろう。だが、成人女性と納得のうえで性的なやりとりをしていると誤認させたうえで脅迫の材料に利用する悪質なユーザーが犯罪者であり、うっかり口車にのって脅された男性たちは被害者だ。脅迫者たちは女性のふりをした男性かもしれないし、組織的な犯罪なのかもしれない。解決には時間がかかりそうなので、とうぶんは誘いの常套手段を周知徹底して自衛のスキルを個々があげてゆくしかなさそうだ。