施設にはいかに立派な経歴を持つ人が多いか、そこで理事会メンバーを務める自分たちはいかに優れているか、言葉の端々にマウント合戦で勝ち抜いた自画自賛が見え隠れしていた。
取材中、設備面の細かい数字で気になることがあると、元理事長は携帯電話を取り出して、施設の責任者に「これ調べて」と指示を出す。どこかの取締役会に参加させられている気分だった。
驚いたのは、この管理組合のメンバーが入居希望者の選別にまで関わっていることだった。
「住人にはマンションの運営に役立ってもらわなくちゃいけない」と元理事長。彼らが直接入居希望者を面談するのだ。
希望者は健康であることが条件で、杖を突いていたらダメ。施設内にある螺旋階段を昇降できるか「運動テスト」まで実施していた。
こうした入居者は、スタッフに対する要望も多い。別の施設のスタッフは、「以前は施設内の部屋に住み込みで働いていたのですが、休日や夜中でも構わず入居者が訪ねてくるので、近くにマンションを借りました」と嘆息していた。スタッフの怨嗟の声は様々な施設で聞いた。
こっそり鰻を中国産に
セレブ入居者の横柄な対応に追われる施設スタッフは気の毒だ。相応の金を貰っているのであれば、ある程度は仕方ないとも思うが、高級施設のスタッフの給料を調べてみると、決して高給取りではない。
先に触れた入居一時金1億超の都内施設では職員の給料は30万円台半ば。この給料で高級感を維持するために一流ホテル並みのホスピタリティを発揮しなければならない。
確かに施設内は超ハイグレードな雰囲気で統一されている。関西地方のある施設ではゴーギャンやシャガールの絵画が廊下に飾られていた。施設の職員は「これ全部フェイクですよ」と話していたが……。
要するに“ハリボテ”なのだ。入居者から見えない部分は手を抜きやすい。この関西地方の施設では、調理スタッフが嘆いていたという。「調理場には窓がなく、施設がオープンしたころはエアコンもなかった。湿気だらけで、食事に混ぜる『とろみ剤』のタッパーにはカビが生えていた」と。