【著者インタビュー】稲田俊輔さん/『食いしん坊のお悩み相談』/リトルモア/1760円
【本の内容】
《四六時中、食べ物のことばかり考えています》(「あとがき」より)という著者が、「から揚げはご飯に合う?」「ラーメンにナルトは要る?」「毎日の料理が想定内にしかならない」「自分の作るご飯が楽しめない」……など、食べ物に関する数々のお悩みに、真面目に、楽しんで、答えた一冊。たとえばこんな具合。カロリーを気にせず暴飲暴食したいというお悩みに、《甘いです。僕はむしろ常にカロリーを意識しています。カロリーをわかっていながらも暴飲暴食する行為こそが尊いのです(後略)》。クスッと笑えて、含蓄ある深い味わいがいつまでも後に残る。
料理が楽しめないなら別にしなくたっていい
南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長にして飲食店プロデューサーの稲田俊輔さん。
文筆家としても大人気で新刊が続けて出るなか、回答者として異能と言っていいほどの才能を発揮する『食いしん坊のお悩み相談』について聞いてみた。
インターネットの「質問箱」「相談箱」で稲田さんのもとに集まってくる質問とそれに対する回答をまとめた本で、質問の多様さと面白さにまず驚く。
「食べるという営みに対して真剣な人が自分の周りに集まってくるので、食に対する熱意の高さがそのまま質問に反映されています。ぼく自身も含めてみんな大真面目で、熱意がありすぎて時に極端だったり滑稽だったりして、傍から見ると珍妙に見える、というのが『お悩み相談』の肝かもしれません」
納豆は混ざっていない部分が残っている方がおいしいという主張に理解を求める人がいたり、「フードサイコパスの婚活」がいかに大変かを訴える人がいたりする。
個々の回答内容は本を読んでいただくとして、「お悩み」に答える稲田さんの向き合い方がまたすごい。決してバカにするとか軽くあしらうようなことはせず、「こう考えてみては?」という思いもよらないアイディアを提示していく。
「質問に答えることの何が面白いかって言うと、自分がふだん無意識にやっている考え方の筋道みたいなものが、人に伝えるために言語化されることですね。自分にはそもそもこういう価値観があるからこれまでこうしてきたのか、みたいな、自分を再発見したりするのが面白い。全力で答えるというのは、全力で自分と向き合うことでもあります」
食に関しての熱意が高すぎると、ともすれば息苦しくなりそうなものだが、稲田さんと質問者とのやりとりにはそういうところがない。
「たぶんいくつか理由があると思うんですけど、割と悲観的な方向に考えすぎる人が多いとぼくはつねに感じているんですね。たとえば家庭の主婦で毎日料理をすることをつらいノルマと感じる人がいます。料理は楽しいものだけど、もし自分が楽しめないなら別にしなくたっていいじゃないですか。いまはおいしいもの、身体にいいものがいろいろ売っているからそれを買ってくればいい。ちょっとでも楽しい、ラクになる方向に持っていきたい、ということを考えています」
こんなこと聞いたらバカにされるかな? というためらいが質問者の側にいっさいない(ように見える)。ちょっとジャンクな「絶対に怒られる蕎麦」が好きだと告白する質問者に対して、蕎麦の「様式美」の世界をわかりやすく解説しながら、稲田さんも「イナダ式納豆蕎麦」のつくり方を提案し、さらに面白さを重ねていく。
「この本に限らず、ぼくが文章を書くモチベーションに『人を笑わせたい』っていうのがあります。クスッと笑うことこそ読書であるぐらいに思っているので、なるべくそういう方向に持っていこう持っていこうとしています」