では、アインシュタインの相対性理論がもたらしたE=mc2は人類になにを認識させたのか? Eはエネルギー、mは質量、cは光速を示す。質量とは簡単に言えば「物の重さ」のことで、金属の銅や鉄などを1g、1kgなどとキログラム単位で表現する。つまりこの公式は、質量を持つ物質がエネルギーと等しい、エネルギーと物質は究極には「同じもの」であるということを示しているのである。
これだけでも物理学の常識を変える大発見だったのだが、さらなる大発見はそれら(質量とエネルギー)がまったく関係無いように見える光速(光のスピード)と、このような等式関係にあることを示したことである。
ここで、高校あたりで習ったはずの初歩の数学を思い出していただきたい。等式は左右に同じ演算を加えても等式関係は維持される。たとえば、5X=20という等式があれば、両辺を5で割ってX=4という形でXの「量」を知ることができる。では、E=mc2からmつまり質量(物質)とはなんであるかを導くには、どうしたらいいか? 両辺をc2で割ればいい。すると、E/c2=mになる。左右入れ替えてm=E/c2としようか。この公式がなにを示しているか、おわかりだろうか。
c2とは宇宙で一番速いスピードの二乗である。とてつもなく巨大な数字だ。そして分数というのは、1/10よりも1/100が、 1/100より1/1000が小さい。分母が巨大になればなるほど実体は「小さく」なる。つまり、物質というのは見かけは小さくても秘めているエネルギーは膨大だということだ。SF小説の世界では何十年も前から「角砂糖一個分の銅でもすべてをエネルギーに変えれば地球を吹き飛ばす爆発力がある」というのは常識で、もちろんこの常識はこの公式から導かれたものだ。
もうおわかりだろう。この公式が、人類に原子爆弾というアイデアをもたらしたのである。
(第1432回に続く)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2024年10月11日号