北野武監督の映画熱が燃えあがっている。見る者の意表を突く斬新な新作を引っ提げ、世界三大映画祭のベネチア国際映画祭(8月28日から9月7日)に戻ってきたのだ。映画『Broken Rage』はAmazon MGMスタジオ製作で、アウト・オブ・コンペティション部門(特別招待作品))に選出された。日本映画としては、同映画祭では史上初めてとなる配信動画作品のエントリーとなった。
昨年、北野監督はカンヌ国際映画祭で『首』を発表した。それから間を置いていないだけに、今年7月のベネチアの映画祭記者会見で『Broken Rage』が公式招待作品として発表されたのは、多くの人にとってサプライズだった。
ただ、ベネチア国際映画祭は過去に『HANA-BI』(1997年)に最高賞の金獅子賞、『座頭市』(2003年)に監督賞に当たる銀獅子賞を授与しており、近年は動画配信サービスの作品も積極的に紹介しているため、“KITANO”の配信作品に目をつけたのもごく自然な流れだったのかもしれない。
今年はクラシック部門で大島渚監督の4K修復版『東京戦争戦後秘話』(1970年)、オリゾンティ部門に坂本龍一氏の息子である空音央監督の長編劇映画デビュー作『HAPPYEND』の上映もされた。奇しくもビートたけしが出演した大島監督作で、坂本氏が音楽を担当しつつ出演もした『戦場のメリークリスマス』(1983年)の同窓会のような年になった。時代を超え、映画史が形を変えながら引き継がれていくのを感じた。
『Broken Rage』の公式上映は9月6日17時から始まった。会場のサラ・グランデ前では、北野監督とともに出演者の浅野忠信、大森南朋らがレッドカーペッドを歩いた。青いスーツで現れた北野監督は、歓声を上げるファンの方へ歩み寄り、サインをするなどファンサービスに余念がない。浅野と大森はそんな北野監督に花道を託すように、一歩引いて後方から見守っていた。
その後、万雷の拍手に包まれた北野組は会場に入場。上映直前には主催側からの粋な計らいもあった。場内アナウンスで、北野監督は“BEAT TAKESHI”、と、“TAKESHI KITANO”の2つの名前で紹介されたのだ。その度に立ち上がっては、周囲に挨拶。照れたように頭を抑え、観衆の声援に応えていた。数席後ろには、《映画の神様 北野武》と書かれたお揃いのTシャツを着て拍手を送るイタリア人ファンの姿もあった。