《間違いなく今年のベネチアで最も楽しい上映だ》
さて、気になる作品の評価だが、北野監督が会見で「結構な失敗作」などと話したのに対し、総じて高かった。
《62分に及ぶ『Broken Rage』は単なる娯楽ではなく、陽気な自画像である。つまり、自分が習得したメディアとの関係を再考し、その過程で明らかに素晴らしい時間を過ごしているアーティストの姿である》(米TheFilmStage)
《『Broken Rage』のジョークは馬鹿げたものからメタ的なもの、そしてその間のすべてだ。見るのが絶対的に楽しく、間違いなく今年のベネチアで最も楽しい上映だ》(カナダ Screen Rant)
上映会場には、熱心に声援を送る北野ファンたちもいた。ベネチア国際映画祭には、20年以上に渡ってイタリア全土から集まって応援を送り続ける『北野武 サッサリ・ベネチア ファンクラブ』が存在する。その主要メンバーのシモーネさんに『Broken Rage』の感想を聞いた。
「北野監督の多彩な魂がスクリーンに共存する見事な作品です。巨匠を知らない人でも楽しめる、不遜でファニーな映画です。この先も、アナーキーな創造性で、私たちを驚かせてくれるような映画を作り続けてほしいです!」
そんなファンに支えられ、北野監督はまた驚きの作品を携え、近い将来この場所に戻ってくることだろう。
『Broken Rage』は Prime Video にて2025 年に世界配信予定。
取材・文/林瑞絵(はやし・みずえ)
在仏映画ジャーナリスト。北海道札幌市出身。映画会社で宣伝担当を経て渡仏。パリを拠点に欧州の文化・社会について取材、執筆。海外映画祭取材、映画人インタビュー、映画パンフ執筆など。現在は朝日新聞、日経新聞の映画評メンバー。著書に仏映画製作事情を追った『フランス映画どこへ行く」(キネマ旬報映画本大賞7位)、日仏子育て比較エッセイ『パリの子育て・親育て」(ともに花伝社)がある。