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兄弟で集まっても芝居の話はいっさいしなかったという

田村正和が生前に抱いていた「夢」

 オフクロは僕の家族と暮らしていましたが、僕の家と正和兄貴の家は隣同士で、2階を繋げて自由に行き来できるようにしていました。だから、正和兄貴もよく家に来て、オフクロに顔を見せていましたよ。息子のそばで暮らせて、オフクロは幸せだったんじゃないかな。

 オフクロが平成5年に92歳で亡くなった後は、正和兄貴の家とも離れて暮らすようになりましたが、女房同士で連絡を取り合ってくれていて、正和兄貴が亡くなる3カ月ほど前にも「元気で散歩をしている」と聞いていました。だから、2時間ほど前に亡くなった、と兄貴の奥さんから電話がきたときは、「誰の兄貴が亡くなったの?」と聞いてしまったほどでした。

 お寺の小さなお堂で、兄貴の希望で身内だけで静かに送ったのですが、ずっと亡くなった実感は湧きませんでしたね。ときどき、ふと「あ、いないんだ」と思ったりして……。やはり寂しいですよ。最後に会ったのは、亡くなる3年ぐらい前。「どう、体調は?」と聞いたら、「仕事を休んでるから、すごくいいんだ」と言っていました。

 テレビドラマで人気を得た兄貴でしたが、本人としては、オヤジが20~30歳代で出演した作品を舞台でやりたい、という思いをずっと持っていたようです。まだ30代だった1978年に、『雄呂血』という、オヤジが剣劇スターとして一躍人気を得た無声映画の舞台版を、名古屋の御園座で主演しましたが、もっとやりたかったんですね。でも、年齢が上がってくると「もう舞台はキツいよ」と、断念したようでした。

第3回に続く第1回から読む

◆取材・文/中野裕子(ジャーナリスト)

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