「本来、心地よい立ち居ふるまいやマナーとは、人間関係を良好にするために生まれたものでした。人間関係に悩んだら、日本の先人が生み出したふるまい方や心づかいに、今一度立ち返ってみてほしいと思います」──そう語るのは、千利休を祖とする茶の湯の家に生まれ育った千 宗屋(せん・そうおく)氏だ。千氏は、ふるまいやマナーについて語った『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓したばかり。
効率を何よりも優先する社会になった現代。コストパフォーマンスどころか、時間や人間関係も効率重視に変化してきているという。そんなコスパ、タイパを重視するあまり、電話のかけ方も知らず、「人との距離感がわからない」と悩む人たちが増えているそうだ。千氏が語る短期連載、第1回は、日本人が大切にしてきた「慮る(おもんぱかる)」という心について伺ってみた。【全6回の第1回】
「慮る」とは、相手の立場に立って「心地よい」かどうか
「世界中の多くの国々の中で、日本という国はずいぶんと恵まれてきたのではないでしょうか。食糧の乏しい砂漠地帯や極寒の地とくらべ、海に囲まれ、温暖湿潤で植物が育ちやすい日本の国土は、太古の昔から多くの人の食糧を確保できる環境でした。そのため、人が生きていくために戦って奪い合わなければならないという必然性が、他の地域よりも低かったのかもしれません。
衣食足りて礼節を知る、という言葉の通り、日本人の中には、分け合い譲り合うという文化がいつしか生まれたのだと思うのです。長い歴史の中では飢饉や圧政に苦しんだ民もいたことでしょう。けれど幸いにも日本では、基本的には争わずとも待っていればちゃんと順番が回ってくるということが人びとの行動規範となり、それが現在の礼儀正しさや奥ゆかしさといった国民性にもつながっているのでしょう」(千氏、以下同)