事故の瞬間は「スローモーションのようだった」
2010年、TBSの番組の企画がきっかけで誕生した「美女♂men Z」は、THE ALFEE・高見沢俊彦がプロデュースして華々しくデビュー。デビュー曲『恋のメタモルフォーゼ』は当時、大きな話題を呼んだ。その後もテレビ番組とのタイアップなど多くのシングル曲を発売。海外のイベントからオファーが来るなど、順調に活動を続けていた。
「実は、僕はバンドに加入した当初、曲も作れず映像編集もできないうえに、楽器も上手く弾けなかったので、ほかのメンバーと自分をくらべて劣等感に悩んでいたんです。それが、事故の1か月前くらいにようやく、やっくんやマネージャーからも『伊織、うまくなったじゃん。もっと編集してよ!』と認めてもらえるようになったんです。やっと自分がバンドにいる存在価値を見出し始めていた頃でした。あの事故が起こったのは……」
2013年10月5日。九州で開催されるイベントに出演するため、バンドメンバーはやっくんの運転で現地へ向かっていた。しかし、そのワゴン車は中央分離帯に衝突し、単独事故を起こしてしまった。
「あの事故が起きる直前は、まるでスローモーションのようでした。死ぬ……そう思った瞬間、ぶつかった後の対応まで考えられるほどに時間が長く感じられました。車がゆっくりと中央分離帯に向かい衝突すると、一気に火花を散らしながら停車しました。僕はすぐさまハザードランプを押したのですが、怪我をしていたため、息ができず苦しくなり、痙攣を起こしながらよだれをずっと垂らしてうずくまっていました」
その後、さらなる悲劇が起こってしまった。
「後ろの席に座っていたマネージャーが、救急車か警察を呼んでくれようと電話対応しながらスライドドアを開けて走行車線に出たところ、後方からトラックが突っ込んできたんです。当時は霧雨で視界も悪く、地元でも知られた事故多発地帯……様々な悪条件が重なり、2度目の事故が起きてしまいました」
ほかのメンバーはずっと叫び声をあげており、TaiGaは痛みに耐えながら後ろを振り返ったそうだ。
「数秒前まで生きていたマネージャーは亡くなっていました。その姿を見た瞬間、『これはあかん!』と思い、不思議なことにそれまで痙攣していた身体の痛みがスッと消えて動けるようになりました。後方に注意し、急いで車を降りて後ろに走っていき、事故を起こしてしまったことを後続車に気づいてもらえるよう、着ていた服を脱いで振り回しました」