「案件」とはもともと、解決すべき問題や訴訟事件のことを指す言葉だった。ところが数年前から「案件」といえば、インフルエンサーが商品やサービスのPR投稿をすることを呼び、それが広がって報酬が発生する仕事の一種という意味を持つようになっている。そして今、SNSでは働き手募集の際に「ホワイト案件」と加えることで、ブラックな仕事ではないとアピールされているという。特殊詐欺関連の取材を続けているライターの森鷹久氏が、「ホワイト案件」の書き込みに誘われた人たちの顛末をレポートする。
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今年8月以降、首都圏で相次いで発生している連続強盗事件。強盗に入った実行役らが相次いで逮捕され、またしても「闇バイト」に応募して集まった男らであることも判明し、警察庁は被害地域の刑事部長を集めて捜査会議を実施して、捜査関係者に発破をかけたと伝えられている。
「闇バイト」の危険性は、マスコミや捜査当局の発表により周知されてきており、事前に約束された報酬が支払われない、個人情報を渡すことで逆に脅され組織から抜けられなくなるなどの実態は知れ渡っていたはずだった。にも関わらず、なぜ、闇バイトに応募する者が後を絶たないのか。事件を取材している大手紙社会部記者が解説する。
「今回の事件で逮捕された男たちの一部からは、当初は”ホワイト案件だ”と(指示役から)説明された、騙されたという供述が出ています。要は、闇バイトだと知らずに応募し、犯行に加担してしまった、もしくは加担せざるを得なくなった、ということです」(大手紙社会部記者)
この「ホワイト案件」とは、犯罪にならない仕事のことを指す。対義語は「ブラック案件」であり、特殊詐欺の受け子や出し子、さらに傷害や殺人を伴う強盗などの犯罪がそれにあたるという。
「最近では、SNSを通じた闇バイトや、闇バイトに加担したことで逮捕されたり人を殺めたり大変なことになる、ということがある程度、周知されている。だからこそ、指示役は最初に”ただ物を運ぶだけ”などといって強盗や受け子、出し子ではない”ホワイト案件”であることを強調し人を集めるようになっています。一連の強盗に加担した者の中にも、このように本当に騙されてしまった者が複数人いるとみて捜査が進められています」(大手紙社会部記者)
SNSに増える偽装「ホワイト案件」
実は筆者も数年前に、なぜ闇バイトに応募し犯罪に加担してしまう者が減らないのか、取材をしたことがあった。当時は、どうしても金に困っている人物や、借金や人間関係に悩み自暴自棄になった人などが応募者の大半で、リクルート側も「いくら(闇バイトのことが)報道されても応募者は減るはずがない」「人間は詰まったら(どうしようもなくなったら)詐欺師でも犯罪者にでもすがりつく」と自信を見せていた。ところがこの数年のうちに、闇バイトのほとんどが、指示役やその上の首領らに「使い捨て」にされることが明らかになると、応募者は激減した。