デビューから66年、第一線で活躍し続けている俳優・石坂浩二(83才)。芸能界の重鎮でありながらも、趣味のプラモデルの話ともなれば、少年のように目を輝かせて話が止まらなくなるほど、親しみやすい一面も持っている。そんな石坂にロングインタビュー。最終回となる第3回では、生きる流儀を聞いた。【全3回の第3回。第1回から読む】
退院日に「今晩、ビールを飲んでもいいですか?」
劇団四季の創設者である浅利慶太さんや映画監督の市川崑さんなど、数々の“恩師”たちの下で経験を積んだ石坂は、演技において、“冷めた部分を持つ”ことを心がけるようになったという。
「ぼくは演技をするとき、絶えず自分のほんのちょっと外側を見ている自分がいるようイメージしています。うまくいっているときは自分ではない、いろいろな人の仕事の成功が重なったとき。そう考えるとうまくいかなかったときの理由が分析しやすい。もちろん、家に帰ってクヨクヨすることもありますよ。そういうときは、好きな絵を描いたりプラモデルを組み立てたりしながら、頭の中で理由を考える。
ただし、その日限りね。それ以上はほじくり返さない。割とノーテンキなんですよ」(石坂・以下同)
この性分は闘病でも生きた。
「2002年のこと。テレビドラマ『水戸黄門』(TBS系)で4代目の水戸光圀を演じている最中に直腸がんが判明しました。ステージ3でした。ショックを受けるかと思ったんですけどね、少し前に同じ直腸がんを患って手術をした義弟がピンピンしていたから平常心でいられました」
このとき60才。手術は無事に終えたが、前年に一般女性と再婚したばかりだったので、妻に心配をかけたのが心苦しかったという。幸い順調に回復し、転移も見られなかったため、退院日、石坂は主治医にこんなノーテンキな質問をしたという。
今晩、ビールを飲んでもいいですか?──。
「先生からは“そんな石坂さんだから傷の治りも早いんでしょう。内臓も若かったですよ”って言われました。帰ってからビール? もちろん飲みましたよ(笑い)」