とりわけ、深く社会の「ご縁」と結びついているのが「冠婚葬祭」
冠婚葬祭とは、人が生きていく上で遭遇する四大儀礼を指す。
「冠婚葬祭という言葉でくくられるさまざまな儀礼こそ、最も人間関係に深く結びつき、しきたりとしてのマナーが問われる場面ではないでしょうか。なぜなら、敬意や感謝、思いやり、清浄、ご縁……といったすべての基本の要素が含まれているからです。冠婚葬祭それぞれに、その地方ならではのしきたりがあったり、家に伝わる方針が存在したりもするでしょう。
家族や親族だけでなく、おおぜいの人が関わる儀式でもあるので、よけいにその場にふさわしいふるまいや服装、正しい作法というものが気になります。これを窮屈ととらえ、時代と共に儀式を簡素化してきたのが現代です。結納は省略し、結婚式は行わないか親族のみで、葬式は家族葬で、といった具合です。核家族化が進んだ現在では当然の流れかもしれませんが、単に合理的でないから、手間がかかるから、といった理由でなくしてしまうのは、残念なことだと思うのです」(千氏)
たとえば結婚。結納は本来、両家の価値観をぶつけ合う機会だった
結納とは、婚姻によってふたつの家が親戚になることを祝い、仲人を立てて結納金や結納品などを受け渡しする儀式のこと。今では省略してしまうか、レストランやホテルなどで略式の顔合わせや食事会として行うことが多くなっている。
「結納によって正式な婚約が成立するわけですから、かつて結婚が家と家との結びつきであった時代には、たいへん重要な儀式とされていました。結納の手順を踏む中で、歴史も考え方も違うふたつの家がそれぞれの価値観をぶつけ合うことになり、それを乗り越えていけるかということが試されたわけです。
現代であっても、婚約や両家の顔合わせや食事会、結納をいつどのようにするかといったことをひとつひとつ決めていく中で、婚約者それぞれが育った家の価値観やしきたりといったものが初めてあらわになってくるはずです。
儀礼とは、一見非合理的でめんどうなものと思われがちですが、型が決まっているからこそ、そこに人の気持ちや本質が現れてくるという側面があります。結納や婚約といった儀式もまた、その後の結婚生活がうまく継続できるかどうかを確認するための、大切な通過儀礼と言えるのではないでしょうか」(千氏)