「清原さんと弟の練習を手伝うような感じで、正吾もうちに来ていた。亜希さんに似て常に前向きで明るく人の懐に入っていくのが上手な正吾に対し、弟はものすごく真面目だけど、父親に似て不器用なところもある。弟思いの正吾は父親との橋渡し役を担ったと思います」
弟の練習をサポートするうちに、正吾も再び野球を志す決断をした。今年7月に私が担当した「Number Web」のインタビューで、正吾はこう答えている。
「自分が大学で野球を再開すると決めた時、一番喜んでくれたのが父だった。母も、僕や弟が野球をやることによって、父の功績や偉大さを改めて感じていると思う。うちの家族にとって、野球というのは本当に必要なツールなんです。一度、バラバラになった家族を繋ぎとめてくれたのも野球でした」
父のお下がりであるファーストミットを左手にはめ、赤いリストバンドを着用して正吾は一塁の守備につく。打席では「リラックス」「センター返し」という父の教えを守ってきた。
10月24日のドラフト会議で自身の名前が呼ばれる──それこそが最大の親孝行であると思って、正吾は運命の日を待っている。
【プロフィール】
柳川悠二(やながわ・ゆうじ)/ノンフィクションライター。1976年、宮崎県生まれ。法政大学在学中からスポーツ取材を開始し、主にスポーツ総合誌、週刊誌に寄稿。2016年に『永遠のPL学園』で第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞。他の著書に『甲子園と令和の怪物』がある
※週刊ポスト2024年11月1日号