ただ、安全保障政策については、保守・リベラルではなくリアリズムの概念で動いている。
石破氏は日米安保条約の見直しを掲げているが、アメリカと同盟を組んでいる国はどこも主権の一部を譲り渡している。各国が所要の条件下でそれが自国の安全保障にとって最良の選択だと思っているからだ。対等な関係にするとか、主権を完全に取り戻すことは、それこそ日本がもう一度アメリカと戦争して勝たないと無理だろう。石破氏は国家の秘密情報にまだ触れていなかったから仕方ないのかもしれないが、現実的ではない。
もちろん、時代の流れによって譲り渡す主権の度合いは変わってくる。日本の国力は1960年に地位協定を締結した時に比べて強くなっているから、アメリカとの関係で日本の主権を伸ばすことができる可能性はある。しかし、アジア版NATOというのは米国が許容できる閾値を超えている。君子は豹変すというから、現実を知ってひっくり返すのではないか。
【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ、東京都出身。作家、元外務省主任分析官。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在露日本国大使館などを経て外務省国際情報局に勤務。現在は作家として活動。近著に『賢人たちのインテリジェンス』(ポプラ新書)などがある。
※週刊ポスト2024年11月1日号