公式には同年11月以降に、海外での〈駆け付け警護〉や〈宿営地の共同防護〉がPKO部隊の新任務として付加されるのだが、日本隊の本部にハセガワマイコを名乗る女性から電話があったのは7月11日夕方のこと。
地獄と化したホテルで彼女が脱出方法を探っていた時、既に中国やエチオピアの即応部隊は任務を放棄。また海兵隊一個小隊を護衛に抱えるアメリカ大使館もUNMISSの出動要請を拒否し、宿泊客70名はほぼ見捨てられたも同然だった。〈海兵隊とサルヴァ・キール大統領の警護隊が交戦し、死者を出せば、アメリカは南スーダンにおける巨額の利権を失う〉とばかりに。
そんな中、麻衣子からの通報を受けた本部は特戦群に出動を命令する。首相の許可をとる間のない中で任務を〈秘密裏〉に完遂できるとすれば、彼らしかいないからだ。こうして風戸以下5名は現場に赴き、麻衣子ら女性3名を救出。その間、隊員1名が死亡し、政府軍にも犠牲者が出たが、メディアはそれを某警備会社の手柄とだけ報じ、特に日本では〈ジュバ・クライシス〉の事実自体、隠蔽されていく。
書く書かないは作家の腕力の問題
「ジュバの危機自体は海外では『Newsweek』やBBCでも大きく報道された。それがなぜ日本ではろくに報道もされなかったのか。こういうことがあると、作家は俄然書きたくなるし、絶対に何かあるって周りも言う。それなのに書かないのは作家としての腕力の問題だと思う。真実に限りなく近い事実を掴み、リアリティをもって書けば、誰が何を言ってきても対抗できるはずなんです。
前にこんなことがあったんです。警察庁の公安の人から突然飲みに誘われて、『この情報、誰から聞きました?』って。もちろん何も喋りませんでしたけど、それって事実と認めたのと同じことだし、ツッコめるものならツッコんでみろという、空手で言う寸止めみたいな呼吸があるんです」