ジュバの出来事から7年後の2023年4月、駿河湾のシラス網に1体の〈流れ仏〉がかかり、身元は元自衛官〈久保田〉だと判明。風戸はその一報を除隊後の生活を全て捨て、南へと向かう車の中で知り、〈今月になって、三人目だ〉と、先日不慮の死を遂げたかつての仲間〈岩田〉や〈石井〉のことを思った。〈殉職した松浦を含めれば、この七年で四人〉〈偶然のわけがない〉と。
折しもその日、羽田にはスーダンの在留邦人を乗せた政府チャーター機が到着。その中にいた麻衣子の姿を風戸は感慨深く見つめ、残る仲間〈宇賀神〉や〈村田〉共々、姿なき敵に挑むことになるのだが……。違和感をそのままにせず、偶然を悉く疑う創作姿勢の原点は「松本清張作品へのオマージュ」にあるとか。
「結局、なぜそんなことが起きたのかを考えていくと、行き着くのは利権や金で、それは僕自身の世界観でも何でもない。この世の中の事実であり真実なんです。
従って僕らに必要なのは1が好奇心で2に観察力、次が分析力で最後が表現力だと思うし、訳あって13の時から歳をごまかして働いたり、アメリカで傭兵訓練を受けてみたり、いろんな経験をしてきたことが、小説家としての引き出しになっているとは思います」
後半の山村を舞台にした戦闘シーンなどはその賜物だろう。敵も含めた1人1人に名を与え、個性を与えることを、現場の報われざる思いや怒りを託された作家は何よりの信条とする。
【プロフィール】
柴田哲孝(しばた・てつたか)/1957年東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科中退。2006年に『下山事件 最後の証言』で第59回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)と第24回日本冒険小説協会大賞(実録賞)、2007年には『TENGU』で第9回大藪春彦賞を受賞。今年6月刊行の『暗殺』は安倍元首相銃撃事件の背景に迫る問題作として大きな話題に。著書は他に『蒼い水の女』『幕末紀』『GEQ 大地震』『リベンジ』『殺し屋商会』等。177cm、77kg、A型。
構成/橋本紀子
※週刊ポスト2024年11月1日号