事実をもとにしているとはいえ“フィクション”だし、本人ではないと分かっているのに、まるでノンフィクションを見ているような錯覚に陥ることがある。ダンプ松本を演じるゆりやんレトリィバァが変貌ぶりを見せたNetflix『極悪女王』も、そんなドラマのひとつだろう。臨床心理士の岡村美奈さんが、ダンプ松本としてゆりやんが発揮した「心理的コントロール」について分析する。
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インスタグラムを見ると、ピンクのチェーンを振りかざすように握った写真が真っ先に目に飛び込んでくる。可愛い衣装を着て、濃いピンクのアイシャドーにワインレッドの口紅をつけているお笑い芸人のゆりやんレトリィバァだが、怖い形相でこちらを睨んでいる様子はヒールそのもの。頭上につけているのは大きな黒いリボンなのに、髪が逆立っているように思えてしまう。やはりNetflixシリーズ『極悪女王』のインパクトが強いせいだろう。
クラッシュギャルズのライオネス飛鳥を演じた女優の剛力彩芽さん、長与千種を演じた唐田えりかさんと一緒の楽し気な写真や、優しい表情を見せているモノトーンの写真よりも、その後に出てくるヒール役で威嚇する顔の写真に目がいってしまう。その写真は強烈な個性の強さを放っているのだ。
公開直後から評価が爆上がり、迫力満点のアクションドラマでもあり、胸が熱くなる青春ドラマでもある『極悪女王』を観て、かつて画面を通して繰り広げられていた血みどろの戦いを思い出した。今の時代なら、放送した途端、あちこちからクレームの嵐が吹き荒れること間違いなし。だが、勝ち負けが決まっているのだろうと多くの人が思っていたプロレスにおいて、善悪がはっきりと目に見え、そこまでやるか!?というマッチだったからこそ、観ていた人たちは真剣勝負のように思えて熱狂したような気もする。
リングの外では、お世辞にもうまいといえない歌と踊りでアイドル以上にカリスマ的な人気を誇った女子プロレスラーもいれば、最恐、最凶ヒールとして罵詈雑言を浴びせかけられたプロレスラーもいた。憎まれ、嫌われながら圧倒的な人気と存在感を持っていたのが「極悪同盟」のダンプ松本。『極悪女王』はプロレスラーを目指した松本香がダンプ松本という稀代のヒールとして活躍した物語だが、これがめっぽう面白い。