ロシア革命(1917年)当時のロシア、日本、中国

ロシア革命(1917年)当時のロシア、日本、中国

 ここは歴史を理解するための重要な急所なので、詳しく解説したいと思うが、まずは大前提として、この「夢物語の実現」が当時の日本人にとっていかに魅力的だったか、まさに「当時の人々の気持ち」になってもらうために地図を作成したので、ご覧いただきたい(「ロシア革命〈1917年〉当時のロシア、日本、中国」参照)。

 第一印象はどうだろう? ロシアがいかに広大な国であるか、だろう。現在でも中国よりもはるかに大きい(カナダ、アメリカ合衆国に次いで領土面積第4位)世界一広大な国である。『逆説の日本史 第二十六巻 明治激闘編』で詳しく述べたところだが、この広大な国家も二十世紀初頭まではバイカル湖近くにあるウラル山脈によって東西に分断され、国力をじゅうぶんに発揮できなかった。それを解消するために着手されたのが、シベリア鉄道の建設である。

 一八九一年(明治24)のシベリア鉄道起工式には、当時皇太子だったニコライ2世が参列している。ちなみに、参列に向かう途中で日本に立ち寄った際に日本人巡査に斬りつけられた(大津事件)わけだが、日本人のロシアへの恐怖がそうせしめたといっても過言では無いだろう。後にロシアは、シベリア鉄道全線開通前に清国を脅して領土内に支線として東清鉄道も建設した。

 これで本線まで完成すれば、ヨーロッパ側にあるモスクワやペトログラードなどの大都市から豊富な物資と兵員を東アジア側に送り込むことができる。そうすれば、ロシアは東アジアを完全に征服するかもしれない。そもそもシベリア鉄道の終点ウラジオストクとは、ロシア語で「東方を征服せよ」という意味である。まさに東アジアへの領土的野心をむき出しにした大帝国とどのように折り合いをつけるか。

 これもすでに述べたように、戦争という最後の手段には慎重だった伊藤博文は、満韓交換論を持ち出して満洲はロシアの「縄張り」と認めるから代わりに朝鮮半島は日本の「縄張り」と認めてくれ、と申し入れた。しかし日本のことなど歯牙にもかけていなかったロシアは、これを拒否した。ロシア側から見れば、シベリア鉄道さえ完成すれば小国日本がなにを言っても圧倒できる。妥協する必要は無い、と考えたのだろう。

 そこで山県有朋を中心とした強硬派の意見がとおり、日本は文字どおり「清水の舞台を飛び降りる」ようなつもりで日露戦争に踏み切った。唯一のアドバンテージは、日英同盟が結ばれていたのでイギリスの援助が期待できることだった。もっともそれはあくまで軍事以外の応援にとどまるものであって、イギリスは日本のためにロシアと直接戦うつもりは毛頭無かったし、その余力も無かった。

 そして、誰もが日本の負けを予想したこの戦いに、日本は見事に勝った。それがいかに巧妙に計算された勝利であったかは前出の第二十六巻に詳述したところだが、その結果日本は樺太の南半分と東清鉄道の一部の租借権を得ることができた。これを日本は南満洲鉄道(略称「満鉄」)と改称し、日韓併合によって朝鮮半島も日本の領土として、なんとかロシアに対抗していこうとした。

 しかし、それでもあらためて地図をご覧いただきたい。大日本帝国のいかに「ひ弱」なことか。ロシアはあまりにも巨大である。それに「帝国主義の先輩」である欧米列強は、たとえばイギリスが香港を、ドイツが膠州湾を九十九年という長期にわたって「租借」していたが、これに対して日本が確立した利権の中国への返還期限はあまりにも短い。満鉄にしても、期限が来たら中国に返還せねばならないのだ。

 そのときが来たらロシアは再び中国に迫って満鉄を「手に入れる」かもしれない。そうなれば、日本は再びロシアと対峙しなければならない。つまり、当時の日本人は軍部だけで無く民間人に至るまで、「なんとかしなければ」と考えていたのだ。あの、強引で性急で結果的に中国人の深い恨みを買ってしまった対華二十一箇条の要求がなされたのも、背景にはこれがある。なんとかせねば「十万の英霊」の死を無駄にしてしまうという「あせり」が、租借期限延長を中国に強要する形になった。しかし、ロシアの脅威は依然として残った。

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