「通販サイトのアカウント名義を貸している」
筆者がさっそく訪ねたのは、そのうちの一軒。東京23区内、下町エリアに建つ古いマンションの一室にあるとされる「Z」という売主だ。インターホンを押し、ドアを開けて応じてくれたのは、年齢30代ほどの日本人男性で、Zについて聞いたが「知らない」「思い当たるフシもない」と強弁し「家族もいるので迷惑だ」と名刺だけ渡すと追い返された。しかし間も無く、男性は筆者に慌てた様子で電話をかけてきた。
「なぜうちがわかったんですか」
その後、男性と落ち合うとこになったが、すでに男性は真っ青な顔をしていた。
「何年か前に、ビジネス系交流会で知り合った方から紹介を受け、通販サイトのアカウント名義を貸しているんです。名義を貸せば、売り上げの数パーセントが入ってくるとか言われました。でも、実際に何が行われているかも知らず、売り上げも最初の3ヶ月は数万円入ってきましたが、その後は音沙汰がない。何か変なことに巻き込まれていないかとビクビクしていました。中国からの輸入ビジネスに使用される、とは聞いていましたが……。先ほどは、家族がいたのでお話しできずにすいません」(男性)
男性の名義で偽ユニフォームが販売されている事実を告げると「逮捕されるんですか、家族崩壊です」と頭を抱え、ついに泣き出してしまった。
近年、「不労所得」や「簡単副業」などの名目で、通販サイトやSNSのアカウントの又貸し、転貸が横行している。転貸アカウントは、このように偽物販売に使われたり、詐欺に利用されたりした結果、問題の責任者として表に出てくる名前は、甘言に騙された転貸元の本名や自宅住所になる。矢面に立たされるのはうかつにアカウントを貸した側で、実際に悪事を働いている者たちは、堂々と犯罪行為に勤しんでいる。
男性はその後、すぐに警察と通販サイトに相談し、通販サイトの当該ページはすべて閉鎖された。だが、購入者が複数人いて、今後、引き続き事情聴取を受けることになった。
偽グッズ販売が摘発され、ニュースとして報じられるとSNSでは「許せない」「けしからん」との反応が大半だ。そのとき、どんな手口で偽物が販売されているかもあわせてアナウンスされているにもかかわらず、似たような偽物販売はなくならないどころか、最近は、フリマサイトやアプリなどを通じて増加しているようにも見える。「よくないこと」と分かっているはずなのに、なぜ増えるのか。前出のスポーツ用品店店主がいう。
「これだけ偽グッズが売られているということは、おそらく少なくない人が、偽物だとわかって買っているんです。でもそれでは、応援しているアスリートやチームの利益にならないばかりか、大袈裟にいえば、プロスポーツ自体が成立しなくなる可能性だってあります」(スポーツ用品店店主)
偽物を作り、それを販売する人々が恥を知るべきなのは当然だとしても、それをある程度分かりながら購入するのも、プロスポーツを侮辱し貶める最低の行為なのだ。