時代物では珍しい親しみやすさ
『嘘解きレトリック』のコンセプトは、貧乏探偵・祝左右馬(鈴鹿央士)と嘘を聞き分ける能力を持つ助手・浦部鹿乃子(松本穂香)によるレトロミステリー。舞台は昭和初期であり、物語は追われるように故郷を出たものの空腹で行き倒れた鹿乃子を左右馬が助け、彼女の能力を知り探偵助手として受け入れるところからスタートしました。
近年放送された月9の中で評判がいいのは、当作の柔らかく優しい世界観が月曜夜の視聴にフィットし、アンチが少ないからでしょう。登場人物も昭和初期の街並みも愛らしく描かれ、時を超えた親しみやすさを感じさせられます。
刑事事件を扱ったドラマが殺人事件ばかりに偏り、不穏なムードに終始しがちな中、『嘘解きレトリック』はまったく異なるベクトルの作品。不穏さは抑えめで、各話の事件も子どもの失踪、令嬢の誘拐偽装、財布の窃盗、人形屋敷の不審死など多彩かつ緩急がつけられています。
助手・鹿乃子の嘘を見抜く力をきっかけに、探偵・左右馬の推理+ハッタリで事件を解決していくテンポも上々。さらに放送を重ねるごとに2人の一体感が育まれていく関係性も柔らかく優しい世界観の理由でしょう。
そんな世界観を作り上げているのは、フジテレビが誇るレジェンド演出家たち。『白い巨塔』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』などを手がけた西谷弘監督をチーフに、『東京ラブストーリー』『ひとつ屋根の下』『ロングバケーション』『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』などを手がけた永山耕三監督、『29歳のクリスマス』『王様のレストラン』『HERO』『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』などを手がけた鈴木雅之監督らが集結し、若いダブル主演の魅力や昭和初期のムードを引き出しています。
昭和初期を描いた今作のような時代物は本来NHKが得意としているジャンルですが、同局の作品は時間とお金をかけて古さや汚れなどのリアルを追求した本物志向。一方、ノスタルジーを感じさせながらも、愛らしくまとめた当作の映像は若年層にとっても見やすいものであり、評判のよさにもつながっているのでしょう。時に、同じ西谷監督が手がけた『シャーロック』を思い出すバイオリニストが登場するなどの遊び心も含め、シリアスさを避ける配慮をところどころから感じさせられます。