ほのかに漂わせる月9ドラマらしさ
『嘘解きレトリック』における演出の素晴らしさを語る上で欠かせないのが精力的なロケ。
時代物のロケで定番の「ワープステーション江戸」(茨城県つくばみらい市)と「房総のむら」(千葉県印旛郡栄町)を筆頭に、千葉県香取市佐原の街並み、重要文化財の安藤家住宅 (山梨県南アルプス市)、牛久シャトー(茨城県牛久市)、坂野家住宅(茨城県常総市)、さらに古民家、小学校、神社、公園、吊り橋、駅など、1つ1つのシーンにこだわってロケが行われています。
ロケは茨城県と千葉県を中心に、静岡県、山梨県、神奈川県などの各所で実行。昭和初期が舞台である以上、近代的な建物などは基本的にNGであり、手間と労力を惜しまず精力的に飛び回っている様子が伝わってきます。衣装、美術、エキストラなども含め、世界観を作るための努力を惜しまない姿勢が幅広い世代にとって見やすい時代物につながっているのでしょう。
そして放送が進むたびに視聴者の心をつかんでいるのが、探偵・左右馬と助手・鹿乃子の絆。特に第3話のラストシーンで左右馬が鹿乃子にかけた言葉が視聴者の感情移入を誘いました。物心がついたころから嘘を聞き分ける能力で気味悪がられ、孤独を抱えてきた鹿乃子に左右馬は「嘘が聞こえる力をただ便利なだけなんて思ってないよ」と切り出しました。
左右馬はさらに「一緒にいると嘘を聞くほうも聞かれるほうも便利なことやしんどいこともたくさん出てくるだろうけど、1人でぐるぐる悩まないでよ。きみはもう1人じゃないんだから」「一緒にいるから悩むんだからさ、一緒に抱えるよ」と鹿乃子に語りかけて手を差し伸べたのです。
鹿乃子は初めて自分の能力に向き合ってくれた左右馬に感激し、涙をこぼしながら手を握り返して心の中で「先生のお役に立てるようになりたい。それが今の私の夢です」とつぶやきました。このようなほどよい「キュン」を時折、織り交ぜるのも月9ドラマらしさであり、評判がいいポイントなのかもしれません。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。