犯人の“アジト”には…
アパートにいた外国人風の住民複数に尋ねて確認したところ、8部屋のうち日本人が住んでいるのは1部屋だけ。残りはカンボジア人と南アジア系の人たちがそれぞれ3部屋ずつ、他に1部屋がベトナム人という住民構成である。
ドラレコ映像では、犯人がカンボジア人と日本語で売価を交渉する会話もあった。こちらの住民が事情を知っている可能性は高そうだが──。
「ここに住んだのは1週間前から。近くの弁当工場で働いています。他の友だちもそう」
カンボジア人の住民女性(30代)はそう話した。
ちなみに彼女は「難民認定申請中」という立場だ。本人によると、日本での就労を目的に偽装の難民申請を繰り返すことで、裏技的に短期の在留資格を得ているらしい。彼女と同じ部屋の他の住民にもそうした人がいるようだ。
「クルマのことは私は知らない。でも、ベトナム人からフェイスブック経由で(無車検・無保険状態で)買うカンボジア人は大勢います」(同前)
在日外国人のアンダーグラウンドの世界には、各国の力関係を反映するようなヒエラルキーが存在する。
すなわち、車検やナンバープレートの偽造など高度な技術が必要な犯罪や、盗品の売買のように利幅の大きなヤミ商売は中国人。その経済圏の“恩恵”にあずかりつつ、現場で窃盗をおこなうのがベトナム人。そして最終消費者の立場で盗品を購入するのがカンボジア人という図式だ。
仮に車両が発見されていなければ、ホンダカーズ野崎店の車両も、カンボジア人らの愛車に化けていた可能性が高い。松本氏が語る。
「日本の自動車販売店は治安のよさを過信しています。事務所内に展示車のキーをぶら下げたままだったり、警備会社と契約していなかったりする店舗も多い。うちは警備体制を一新し、販売車のセキュリティ機能を上げるオプションの提供もはじめました。販売店も個々のクルマも、海外のような徹底したセキュリティ体制が必要だと痛感しています」
日本の移民社会化と、一部の在日外国人による犯罪。日本は、従来の安全意識が通用しない社会に変わってしまうのだろうか。
(前編から読む)
【プロフィール】
安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。中国や在日外国人をメインテーマに執筆活動を行なう。2019年、『八九六四』で大宅壮一ノンフィクション賞、城山三郎賞をW受賞。近著に『中国ぎらいのための中国史』。
※週刊ポスト2024年11月8・15日号