原材料高などで値上げラッシュが続く中、「ワンコイン」で満足できるランチを探すのは至難の業となっている。以前までワンコインランチといえば、ボリューム満点の牛丼はその“代表格”だった。
しかし昨今、『吉野家』『松屋』『すき家』の大手チェーンの牛丼並盛の価格が税込400円台となり500円を突破しようとしている。
そんな中、都心にありながら常に390円(税込)で牛丼を提供し続ける店がある。東京・文京区にある『丼太郎』だ。たった1店舗ながら、大手チェーンより安く商品を提供し続けられる理由を聞いてみた。【前後編の前編】
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「アルバイトから始めた牛丼作りも、気づけば40年になりました。牛丼一筋40年です」
そう語るのは、『丼太郎』の佐藤慶一社長(59)。社長といっても従業員は自身含めてたった4人の小さなお店。佐藤社長が大学生の頃に『牛丼太郎』(前店舗名)のオープンにアルバイトとして立ち会って以来、店名を『丼太郎』を変えた今日まで牛丼を作り続けている。
『牛丼太郎』は1983年、吉野家の元副社長によって創業された。一時期は一杯200円という今では考えられない価格で店舗を展開し、コアなファンを獲得した。その後も低価格を守り続けたが、大手チェーンとの競争に敗れ、2013年に倒産してしまった。
「自分にできるのは牛丼作りだけ。倒産した『牛丼太郎』をどうするか迷っていた時に、常連のお客様が『この味を無くさないでほしい』と声をかけてくれたんです」
その声に応えたいと考えた佐藤さんは、賛同する3人の従業員とともに、『牛丼太郎』の一部店舗を買い取って店名を新たに『丼太郎』として営業を続けることを決意する。店の看板も、倒産前のまま『牛丼太郎』の「牛」の字だけをガムテープで隠し、『丼太郎』として再出発した。
「改名にあたって『元祖・牛丼太郎』とか、新たな要素を付け足す案も考えましたが、それすら手間だと思いました」と佐藤さんは笑う。
今では「カレー」や「納豆丼」など、牛丼以外のメニューも提供し、味の幅も広がっている。