戦国時代から安土桃山時代にかけて生きた茶人で、山上宗二(やまのうえのそうじ) という人がいます。千利休の弟子で、当時の茶道具や茶人としての心得について書き著した『山上宗二記』という本を残していますが、その中の、茶席の心構えをまとめたくだりに、「心の内よりきれい好き」という言葉が登場します。これは、心の中もすっきりときれいに整えておくという意味ですが、さらに深く読み取ると、茶席に招いた相手に対して、自分の利益になることを期待する下心ややましい気持ちを持ってはならないという戒めと受け取れます。
そうしたやましさは、必ずひとつの汚れとして相手にも伝わるもの。身のまわりを整え、さらに心の中に積もったちりをきれいに掃き清めることが、人と人との和やかな交わりにつながるに違いありません」(千氏)
片づけ上手、整理上手
暮らしの中でも、「きれい好き」を心がけたいものだ。片づける、掃除する、整理整頓する。家やオフィス、デスクまわりがいつも整えられていれば、探し物も見つかり、あわてることも少なくなり、余裕を持って暮らすことができる。
「私が修行先の比叡山延暦寺で習った教えに、『信は荘厳(しょうごん)より生ず』というものがあります。荘厳とは、仏様やお堂を清潔にし、お供え物をして美しく整え飾り立てること。そこには僧侶のたたずまいや衣の美しさ、清潔さ、さらに読経の声や所作の美しさも含まれます。それらがすべて美しく整い荘厳されることで、見ている人は難しい教えやお経はわからなくても、なんとなくありがたいという気持ちになり、自然と手を合わせたくなる。それが信心をすることの第一歩になる。ゆえに掃除や整理整頓、身だしなみは怠ってはならないというものです。
また茶の湯の平点前(ひらでまえ 基本の点前)では、湯だけ沸いた釜以外は何もない座敷に、一から道具を持ち出し、最も使いやすい位置に置き、茶を点て終えたら、最後にすべてを持ち帰って何も残しません。必要なものを使いやすい位置に置き、使い終えたらもとの場所に戻すという、片づけの基本が自然な流れの中で行われます」(千氏)