自分の家ってこんなに広かったのか
刑務所を一歩出れば、1人で好きなように歩ける。
「今は刑務所の近隣にもコンビニができている。昔のように、地元に帰るのに電車の切符を買い、キオスクでつまみとビールを買ってホームのベンチで、一杯やりながら自由を噛みしめるなんてことはない。コンビニに行けばビールからスイーツまで何でも買えるんだからな」。棚に並んでいる食べ物は見れば何でも食べたくなると幹部はいう。刑務所の中には一切自由はないが、コンビニには自由が溢れている。やはり好きな物を好きな時に、好きなだけ食べられることが、出所して最初に自由を感じる瞬間らしい。
スマホがなければ生活できないといっても過言ではない今の時代、スマホを返却された時はどうなのか。受刑者たちが持っていたスマホは、逮捕の時に取り上げられるが、その後、保管され、出所時には返還される。保管中、電源オフでも基本料金は発生しているので、料金が未払いだとすぐには使えない。未納期間が長くなれば支払っても使えない場合もあるという。銀行口座をもたないヤクザにとって、スマホを買うのはハードルが高いのだ。家族や組の子分などが代わりに支払っていたなら使用可能だが、戻ってきてもバッテリー切れである場合がほとんど。ようやくスマホを手にしてもすぐに電話ができないケースが多く、自由より不便さやストレスを強く感じるらしい。
住む所がある者は自分の家に帰っていく。この幹部は借家住まいだが、知人の物件を借りていたため、服役中、家賃が未納でも追い出されることはなかったという。「以前は狭い!と思っていた小さな家だが、帰ってきたら、自分の家ってこんなに広かったんだと思ったね」と開放感を味わったという幹部は、「いいもんだよ。自分で自由にドアが開けられるって」と笑い出す。一般人にはわからない感覚だが、「刑務所にいれば、ドアは開けてもらうもの。自分では開けられない。許可がないとドアは開かないんだから、出入り自由はいいね」。
出所したての元受刑者が自由を感じるのは、普通の人にはごく当たり前のことだった。