祖父の人柄の良さが祖母や母を救った部分はあった

「私にとっては本当にいいおじいちゃんだったし、母にとってもいい父親だったんじゃないかと思います。祖母はあの通り、ものすごく怒りっぽいから、祖父が緩衝材になっていたところはあると思うんです。祖母の人生にとって『害悪』に見えるかもしれなくても、祖父の人柄の良さ、のんびりしたところが祖母や母を救った部分は確かにあったと思うので、そういう面が少しでも伝われば」

 ヤクザと夜通し賭け麻雀をしていたことから、杉山家では祖父のことを、「カイジ」(漫画(『賭博黙示録カイジ』の主人公)と呼んでいる、というのがおかしい。

 佐藤さんの姉早苗さんについても「祖母にとってはとても大きな存在だった」と桃子さんは言う。

「認知機能が落ちていることもあるんですけど、母のことを早苗だと間違えたりして。祖母の本について『早苗についてもっと知りたい』というAmazonの読者コメントがあったこともあり、彼女についても少しですが書いています」

 執筆していたのが介護がどんどん大変になってくる時期と重なったこともあり、元気だったころの祖母の姿が思い出せないこともあったそうだ。

 それでも、桃子さんがまだ字を書けなかった幼少の頃に、自分で考えた物語を佐藤さんに口述筆記させたことや、キッチンペーパーを買うのをケチって書き損じの原稿用紙の上に揚げ物を並べる祖母を見て、同じようにしていたら母に怒られた話など、懐かしい思い出がいろいろ描かれている。

 あるとき死んだ後の話になって、佐藤さんが桃子さんに「人は死んだら無になる」と言ったそうだ。スピリチュアルな世界に関心を持ち続けてきた人なので意外でもあるが、「頭では理解しても、芯の芯では信じきれなかったということなのかなと思います」。

 桃子さんは「青乎」という名前で活動する音楽家で、漫画家でもある。今回の本には文章だけでなく漫画も収録され、桃子さんの笑いのセンスが炸裂している。

 草笛光子さんが御年90歳で佐藤愛子役を務め、今年6月に公開された映画『九十歳。何がめでたい』の撮影現場見学の漫画も面白い。

 佐藤さんと桃子さんは毎年、年賀状のために趣向を凝らしたコスプレ写真を撮影していて、本にもなっている。映画ではそれが、贅沢にも写真で忠実に再現されている。

 落武者の扮装をすることになった草笛さんが「ご先祖様に顔向けできない」とつぶやき、それを目の前で聞いた桃子さんが「祖母の悪ふざけのせいで大女優が……」と申し訳ながっている様子も描かれて、笑ってはいけないのにこみ上げる笑いに七転八倒する。取材・構成/佐久間文子

【プロフィール】
杉山桃子(すぎやま・ももこ)/1991年東京生まれ。立教大学卒。作家・佐藤愛子さんのエッセイに「孫の桃子」としてたびたび登場する。幼少期よりコスプレ年賀状に付き合わされ、『孫と私のケッタイな年賀状』として刊行されている。それを映画『九十歳。何がめでたい』では草笛光子と桃子役の藤間爽子が熱演(!?)。現在は「青乎(あを)」名義で音楽、映像などの創作活動を行っている。本作が初著作。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2024年11月28日号

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