「これは決して単なる“お金持ち同士のマンション紛争”ではありません」──渋谷区の再開発事業の内情を知る人物たちは、口をそろえて警鐘を鳴らす。このスキームが広がれば、誰もが“明日は我が身”の問題になるというのだ。再開発事業への反対運動の先陣を切るひとりが、大手衣料チェーン「ジーンズメイト」の創業者である西脇健司氏(79)だ。【前後編の前編】
トラブルの焦点となっている再開発現場のすぐ近くに建つ「パークコート渋谷 ザ タワー」(以下、パークコート渋谷)の住民である西脇氏が、一連の騒動を振り返った。
西脇氏は、1987年に株式会社ジーンズメイトを設立。24時間営業という衣料品店としては珍しい施策を打ち出して、全盛期の店舗数は110を越えた。2017年に同社がRIZAPグループの連結子会社となり、西脇氏の仕事人としての日々にも一区切りがついた。妻に先立たれてひとり暮らしではあるものの、友人は多いほうだ。2020年7月に竣工したばかりの「パークコート渋谷」に引っ越して、息子家族や友人たちが訪問するのを楽しみにする生活を過ごしていた。
三井不動産グループが手掛ける「パークコート渋谷」は2020年7月に竣工した、地上39階建てのタワーマンションだ。区立神南小学校と近接している。大の子ども好きである西脇氏は、小学校の生徒たちと挨拶を交わすなど、自宅の傍で遊ぶ子どもたちから元気をもらっていたという。
そんな穏やかな生活のなか、だんだんと再開発事業について耳にする機会が増えていった。初めは「そんな案もあるのか」程度に受け止めていたが、詳細を知って仰天した。公共施設が“容積適正配分型地区計画”を利用した異例の事業だったからだ。