選挙戦が始まる前、政党や団体の支援がなく孤立無援で戦う斎藤が選挙で勝つことがあるとすれば、都知事選で善戦した石丸伸二のようなネットを使った空中戦に頼るしかないだろう、と私は考えていた。インタビューでそう尋ねると、斎藤はこう答えた。
「もちろん、X(旧Twitter)やInstagram、YouTubeも使っていきます。確かに、石丸さんの選挙戦はすごいと思いますが、私はSNSよりも、街頭演説の中で、一人でも多くの県民に直接訴えていきたいと思っています」
選挙が始まる前の時点の斎藤は、ネット戦略に積極的ではないことが強く印象に残った。
その斎藤が、ネットが持つ威力に気が付き始めた、と感じたのは、選挙戦中盤のこと。演説でこう言い始めた。
「メディアの報道は本当に正しいのかどうか。県民の皆さんがご自身でネットやYouTubeを見て調べて判断している。何が正しいのか、何が真実かを、一人ひとりが判断されています」
こう言って、既存メディアの報道に疑問を投げかけ、あたかも“真実”はネット上にあるかのような発言が増え始めた。
多くの斎藤支持者は、告発文書問題が勃発した当初は、斎藤を悪者だとみなしていたが、その後、ネットの情報を通して“真実”に気付いた人々だった。それを機に、熱烈な斎藤支持者に転じていく。支持者一人ひとりにとっても、ネットを通して“真実”を再発見していく“覚醒の物語”でもあった。