この選挙戦で、元県民局長の私的な醜聞と自殺を結び付ける陰謀論を展開したのが、立花孝志だ。立花は、元県民局長が公用パソコンの中身を暴露されるのが怖くて、自殺した可能性が高い、と街頭演説で繰り返し語ることで、斎藤を援護してきた。
斎藤の出陣式の直後に、同じ場所に立花が現れたときは、聴衆から、タチバナコールとともに、「正義の味方!」という掛け声までかかった。立花は何度も斎藤の演説の後を付いて回り、真偽不明の言説を撒き散らした。それをSNSでも拡散した。
ここで一つ重要なことがある。
元県民局長のプライベートな事柄については、取材している記者の大半が知っていたが、テレビや新聞、主要な雑誌が報じることはまずない。しかし、それは斎藤支持者が主張するように、「メディアが真実を隠蔽している」からではない。
現時点で、元県民局長のプライベートな問題と自殺には直接的な因果関係は認められない。私的な醜聞情報には、報道が満たすべき公共性と公益性、真実性が欠如している。だから、主要メディアは報じないのだ。
私的な問題以上に大切なことは、県の最高権力者である斎藤が公益通報者保護法に反す可能性がある告発者探しをした過程で、元県民局長が自殺とみられる死を遂げたことだ。
斎藤自身は立花との直接的な関係を否定する。「いろんな人がいろんな考えを持って選挙戦に挑んでいる。人は人。自分は自分だ」と先のインタビューで答えている。
しかし、立花の参戦が斎藤にプラスに働いたことは間違いない。
加古川市に住む高見充(52)は、当初、稲村和美に投票しようと思っていたが、立花の参戦で斎藤支持に変わった。
「立花さんのYouTubeを見て、テレビがウソをついていたことが分かりました。自分がどれだけ洗脳されていたかに気付いたんです。立花さんが立候補していなかったら、稲村さんに入れていました。立花さんは5~6年前からずっとフォローしていて、100%信用しています」
(後編につづく)
【プロフィール】
横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年よりフリーランスとして活躍。2020年に『潜入ルポamazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞。2022年に『「トランプ信者」潜入一年』で第9回山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞。近著に『潜入取材、全手法』(角川新書)。
写真/筆者撮影
※週刊ポスト2024年12月6・13日号