明石市に住み、ネットショップを運営している田村恵子(65)は、マスコミのことを躊躇なく「マスゴミ」と呼ぶ。
「文書問題なんて、マスゴミが勝手に捏造しただけなんです。そんな事実は一切ない。元県民局長が亡くなった理由についても、斎藤さんのせいだって、最初はマスゴミに騙されていたんです。それが分かってからテレビのコンセントを抜きました。新聞は取っていません。毎日、ネットで情報を収集しています」
そんな田村も、日米政府がディープステイトの攻撃を受けていると信じている。
穏健派とみられる高齢者も斎藤支持に回った側面も見逃せない。
相生市に住む会社経営者の福田勉(80)は、兵庫県にある報徳学園にゆかりがある江戸時代後期の農政家である二宮金次郎(尊徳)になぞらえ、「斎藤さんは令和の二宮金次郎だ」と語る。
「金次郎は、故郷の小田原藩主に農政改革の手腕を見込まれ、下野国の桜町(現在の栃木県真岡市)の財政を立て直すために派遣されるんです。けれど、金次郎に抵抗する地元の藩士にさんざん邪魔されました。それでも金次郎は約10年かけて、財政を立て直し、地元の人々に大いに感謝されるんです。その姿は、兵庫の財政を立て直そうとしたために、足を引っ張られることになった斎藤さんとそっくりです。金次郎が最後には、地元の村民に支持されたように、今回も斎藤さんが勝利するでしょう」
こうした様々な人たちが支持した結果が、今回、斎藤元彦に勝利をもたらした。斎藤現象の背景には、多様な人たちのそれぞれの思いがひしめいていた。
(前編から読む)
【プロフィール】
横田増生(よこた・ますお)/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務め、1999年よりフリーランスとして活躍。2020年に『潜入ルポamazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞。2022年に『「トランプ信者」潜入一年』で第9回山本美香記念国際ジャーナリスト賞を受賞。近著に『潜入取材、全手法』(角川新書)。
写真/筆者撮影
※週刊ポスト2024年12月6・13日号