前受け校を受ける?受けない?「塾の先生をみくびっていたのは私の方だった……」
第一志望以外の受験校は、すべて母親である自分が決定したというBさんも2024年に娘の受験を経験。2月1日の本番に想定外の事態が起きてしまい、合格圏だった第一志望は不合格に。その経験から、受験本番前に子どもが傷つく経験をさせておけばよかったと痛感した。
「うちの子のメンタルが弱いのはわかっていたから、1月の千葉受験でもし不合格をもらってしまったら1週間ではメンタルの回復が間に合わないのが怖くて、受験を回避しました。
塾の先生からは、そこであえて不合格を経験させたほうがいいとアドバイスを受けていましたが、私は“先生、うちの子のメンタルの弱さをみくびっているでしょ”と言って聞き入れませんでした。本番で想定外の事態が起きてメンタルが崩壊した娘に対して、たった1分の電話で復調させてくれた先生です。先生の魔法をみくびっていたのは、私のほうでした…」(Bさん)
塾の先生のアドバイスをどう受け取るか、最終判断は家庭に委ねられるのだが、Bさんはこう続ける。
「おまけに埼玉受験では、問題の相性が悪いから不合格になるだろうと思っていた学校に合格してしまい、二月の入試本番前に傷つくという経験をしてこなかったのです。
本番前に傷つく経験をしておけば、2月1日もメンタルを立て直せたかもしれません。もちろん、千葉受験で不合格で2月1日も不合格だったら、千葉受験を回避すべきだったと思うでしょうからすべては結果論ではありますが、2月1日の夜、私の頭の中には、娘を箱入りにしすぎたことへの後悔が渦巻いていました」(Bさん)
100%思い通りの結果で受験を終える家庭はごく一部。それが中学受験の現実だ。
『母たちの中学受験』は、筑駒や難関校などを目指し2024年に子どもの中学受験を経験した6人の母たちのノンフィクションルポ。著者のおおたとしまさ氏は「ほろ苦さに備えるための術を手にして、子どもの受験に臨んでほしい」と伝えている。
渦中にいるときには見えなかったものが見えてくるのは、残酷にも受験が終わってから。経験者のリアルなエピソードの数々は、我が子の受験を控えた親にとって「未来の自分からのアドバイス」になることだろう。
※おおたとしまさ・著『母たちの中学受験』を一部抜粋・再構成
【著者プロフィール】
おおたとしまさ/教育ジャーナリスト。リクルートでの雑誌編集を経て独立。数々の育児誌・教育誌の企画・編集に係わる。現在は教育に関する現場取材および執筆活動を精力的に行っており、緻密な取材、斬新な考察、明晰な筆致に定評がある。テレビ・ラジオなどへの出演や講演も多数。中高教員免許をもち、小学校教員や心理カウンセラーとしての経験もある。著書は『勇者たちの中学受験』『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『不登校でも学べる』など80冊以上。おおたとしまさオフィシャルサイト http://toshimasaota.jp/