ただ、スターホースが多数登場して競馬人気が高まってくると、アラブのレースへの注目度は低下してレース数も減り、1995年暮れに中京競馬場の2500mで行なわれたアラブ大賞典が最後になりました。このレースではそれまで1000mから2000mまで6勝をしていたムーンリットガールという馬が勝ったのですが、彼女の競走人生はこれで終わりません。
なんとその1週間後に行なわれた1200mのGIスプリンターズステークスに出走、関西の森秀行調教師から僕に騎乗依頼が来たのです。まだGIを勝っていなかったので、とてもありがたいと思いました。今考えればアラブ馬でサラブレッドのGIに出るというのは新しいことにチャレンジしてきた森先生ならではです。「出ちゃいけない」という規定はないのですから(笑)。レースに行くとやはりスピードが違いましたが、サラブレッドのトップクラス相手にビリではなかったんですよ。この後、地方でもアラブのレースが徐々に減り、2010年ぐらいには姿を消してしまいました。
日本ではアングロアラブが主流でしたが、海外にいる純血アラブ馬は顔も高貴な印象で、すごくカッコいい。中東では今でも純血アラブのGIレースがあるそうです。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2024年12月20日号