今夏に開催された巨人・阪神のOB戦で、酸素吸入器をつけた車椅子姿でグラウンドに姿を見せ、ファンを驚かせた江夏豊。現在は「心配はご無用だ」と語る“伝説の左腕”は今、野球人生をどう振り返るのか。野球史に刻まれる名選手たちとの思い出を語り尽くす。《聞き手/松永多佳倫(ノンフィクション作家)》【全3回の第2回】
数字を追いかけたことはない
阪神時代の俺は1年目からもう無我夢中だった。三振の数も今の時代からは考えられない。2年目に401個。三振取るのが趣味やったと思うくらい、よく取ったと思う。
野球人生で206勝193セーブ、あと7つで200セーブだったと言われるけど、数字なんていうのは一度も追っかけたことがない。強いて言えば、やりたかったのはひとつだけ。1000試合登板。その時点で日米誰もいなかったから、それが最終目標だった(最終成績は829登板)。
今の日本のプロ野球には対戦してみたいと思わせるバッターがひとりもいないのが寂しい。惹きつけるものが少ない。時代の流れとともに突出した「個性」が出にくくなっているのかもしれない。そう考えた時に、俺にとって人生で忘れられない対決と言えばやはり王(貞治)さんしかいない。
もう王さんで始まって、王さんで終わったと言っても過言ではない。自分の野球人生にとって、それぐらい王さんとの対決というのは思い出深い。いち選手として、いい時代に野球ができた。それは心底認めるところだ。巨人のV9時代に鎬を削って真っ向勝負した選手たちは、誰も彼も俺にとっては好敵手だった。