巨人のことが大好きよ
ミスター(長嶋茂雄)もそう。身に染みて感じていることだけど、同じく打たれても王さんの場合は悔しくて悔しくてたまらないのに、ミスターの場合はなぜか腹が立たない。それはミスターの人徳なのかもしれない。
外で会えば「豊、豊」と声をかけてくれて、個人的な感情を素直に出してくれる。自分にはできないことであり、とにかく素晴らしい人だった。この人たちと野球が一緒にやれたのは、何事にも代えられない財産だ。
我々の年代というか、野球をやってきた人間でいろんな意味合いで巨人を嫌いだという人もいるかもしれない。でも、斬るか斬られるかの問題となれば、周りに斬らすよりも自分で勝負をつけたいというぐらい巨人のことが好き、大好きよ。ONを筆頭にいい選手と勝負ができた巨人軍、好き以外な感情なんてない。俺にとっては当たり前な気持ちだと思う。
阪神からトレードで南海に行った時、野村克也という人間がいた。彼もまた特別な人やった。当時は周りから認められない、愛されない部分もある人だったけど、俺は好きだったし「おい豊、豊」とよく声をかけてくれた。そういう意味じゃ忘れることができない。
野村克也解任時の刀根山マンション籠城も、本当は若手が何人かいたけど「お前らは帰れ」と帰した。批判を浴びる役目は俺らが引き受けるつもりでいたから。マスコミには散々叩かれた。叩かれるのは慣れっこだったけど、周りに迷惑かけるのはやっぱり辛かった。
同じ左腕の大先輩のカネ(金田正一)さんとは、俺の1年目に大喧嘩した。「このガキ!」「このポンコツ!」と。自分と親しくなった諸先輩方もいれば、そうでない場合もある。人間誰だってそう。でも勘違いしないでほしいのは、大喧嘩したからといって憎んでいるのとは違う。現に400勝という偉大な記録を打ち立てたカネさんに敬意を持っているんだから。