「私たち落語家が、いちばん力が入るのが『杉友(さんゆう)寄席』。ここ紀尾井ホールは“寄席のカーネギーホール”と言われております」
高座に上がってマクラを振り始めた落語家の視線の先には、客席の最前列からステージを見上げる歌手で俳優の杉良太郎の姿があった。杉友寄席とは、杉が席亭を務める落語会。12月4日、東京・紀尾井小ホールで「令和版 杉友寄席」が催された。
なぜ、“令和版”と謳っているのか。杉が明かす。
「そもそもは昭和の時代、43年前のこと。私が時代劇『大江戸捜査網』に主演していた頃です。その時、共演していた古今亭志ん駒さんから若い落語家さんたちが高座に上がる機会に恵まれず、収入や稽古不足に陥っていると聞いて何か力になれないか、と。そこで落語に情熱のある若手を集めて『食えない噺家を励ます会』として自宅で寄席を開いたのが始まりです。その寄席を昨年復活させまして、“令和版”と付けているんですよ」
かつて杉邸で行われた寄席には、錚々(そうそう)たる顔ぶれが落語を聴きに集まったという。
「その当時は、十七代中村勘三郎さんや江利チエミさん、清川虹子さんといった皆さんがお客さんとしているものだから若手が緊張して“えぇ~”と言ったきり、下を向いて黙っちゃうんです。あの頃の噺家は純でしたねぇ。今ではすっかり大師匠になられて今日、43年ぶりにお会いしたら当時の面影が消え失せていた(笑い)」
そう語って古今亭志ん彌と林家正雀の顔をちらり。目が合うと懐かしそうに笑い合った。寄席では吉原朝馬、金原亭馬太郎、古今亭雛菊も高座に上がり、5名が落語を披露した。復活した令和版の杉友寄席では《落語を通して社会を良くしよう!》をスローガンに掲げている。この度3回目を迎え、昨年は特殊詐欺と健康をテーマに行われた。
「テーマがなければ個人的な趣味で寄席を開いているんだなと、思われてしまう恐れがある。今この時代に寄席をするならばその都度、社会性のある意義を持たせることが大事だと考えています。第1回は『詐欺を斬る』、第2回は『笑って健康落語』、今回は『防災』をテーマに災害時のペットとの同室避難を考える回にしました。大きな意義の元に落語家の皆さんが話芸を競い、お客さんにとっては笑いながら社会問題を考える場となる。落語を聴きに来て構えることがないから、スッと頭に入ってくるんですよ」(杉)
冒頭には杉の妻・伍代夏子が“愛犬家”として登壇。自身がアンバサダーとして推進する「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」の活動報告を行った。活動のきっかけは長年杉と続けている被災地支援だったと、伍代。
「日本は本当に災害が多く毎年のように水害や地震に見舞われて、避難所生活を余儀なくされている方々がたくさんいらっしゃる。ちょっとでも何かお役に立てることがあればと、被災地へ杉さんと足を運ばせていただいています。その中で“ペットと一緒に避難することができない”という声をたくさん聞きました。一緒にいる場所を求めた結果、倒壊寸前の危ないお家へ戻ってしまう。そこで二次被害に遭ったり、ペットと車中泊をして体調を崩したりしてしまうんです。ワンちゃんを家族のように思っている身として、身につまされる気持ちでした」(伍代)
杉家では同室避難推進プロジェクトの名称にもある長男「りく」、そして次男「そら」という2匹のカニンヘンダックスフンドを迎えている。
「アレルギーのある人や動物がきらいな人も、たくさんいます。人間と住み分けることでペットを連れてきてもいい避難所を作ることはできないか、コツコツと呼びかけているところです」(伍代)