先の高齢者の著しい増加と現役世代の減少、そして将来的な年金問題への対応とされるが200万人が新たに扶養から外れるなどで厚生年金を払うことになり、やはり手取りは減ってしまう。先に「103万円の壁」を中心とした現役世代のための見直しありきのはずが「106万円の壁」のほうがあっさり撤廃の方向となってしまった。それどころか自公は「103万円の壁」引き上げについて178万円でなく123万円に抑えたいという。
高齢者の年金と医療は膨大で増え続けるばかり、誰でも彼でも給与から差っ引ける厚生年金できっちり徴収したい。自公の裏にある財務省および厚生労働省、一般国民を敵に回しても試験で受かっただけで選挙のない自分たちは怖くない、だから財源は減らしたくないということか。
これについては経営側も深刻だ。都内コンビニチェーンのフランチャイズオーナーが話す。
「どれだけ猶予を貰えるかにもよるが、雇う数をさらに減らすか、それこそ週20時間以内で働いてくれる人やスポットで入ってくれる人を増やすしかない。言うほど簡単なことじゃない。中小零細の店舗はどこもそうだと思う」
それこそ働き控えを防ぐ方策が働き控えになる本末転倒な話になりかねないが、スキマバイト系はますます需要が増えそうだ。除外される学生アルバイトもさらに争奪戦となるだろう。厚労省は保険料の一部の肩代わりなどを検討中だが中小零細では厳しいことが予想される。この対策としての「キャリアアップ助成金」はすでにあるが受給要件の証明も難しく、助成金そのもののルールも複雑なため現状でも経営側の不満は大きい。
そもそも「失われた30年」いや40年近くなるとされる失政の尻拭いといった感のある「手取り減」そして「使えるお金が減っている」に対する「103万円の壁」、そしてやぶ蛇の「106万円の壁」問題。肝心の時給も物価上昇ほどには上がらず、「どうせ言っても文句だけ」と現役世代が打ち出の小槌になってしまっている。税金を国民から搾り取ることばかりに固執して国民生活の向上に対する優先順位を下げた結果が、この国の現役世代を苦しめている。「いくら取っても文句は言えないし隠せない」現役世代が打ち出の小槌になってしまっている。もう振ってもろくに出て来ないくらい疲弊しているというのに。
SNSを使った令和の一揆に大敗の自民党とその尻尾の公明党、にも関わらず「106万円の壁撤去」はすんなり了承で「103万円の壁」は「目指す」(だいたいこれに騙されてきた)であった。そして言葉通りに彼らは「123万円」で確かに「目指す」だけの姿勢であった。「誠意を見せたつもり」と自民党の宮沢洋一税制調査会長は発言したが、これは一般国民に対する煽りのつもりか。いよいよ次の選挙で自公政権が倒れかねないこと、それほどまでに現役世代の怒りを買っていることを彼らは理解しているのだろうか。
中間層の手取りはますます減り、会社に勤めているだけでは満足に使えるお金がなくなってゆく悪循環――令和の年貢は五公五民、実質的には六公四民とか言われているが「胡麻の油と現役世代は絞れば絞るほど出るものなり」も限界に思う。そもそも、そんな幕府は倒れたのだから。
日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。