イップス対策の「ポジティブノート」
アスリートは誰しも、自分がイップスだとは認めたくないものだ。それゆえ、イップスへの対処法は、まずは自分がイップスであることを認めることから始まると言われる。
「今まで普通にできていたことが突然できなくなるんですから、これはもうイップスだと認めるしかなかったです。イップス経験者の話を聞いたり、YouTubeで良い対処法があれば試してみたり……。自分の場合は、暴投してもいいんだ、と開き直ったり、暴投した自分が悪いのに捕れなかった捕手のせいとして割り切ることで、気持ちが少しラクになりました」
毎日、自分自身に起きた良いことだけを綴る「ポジティブノート」を習慣にし、少しずつ精神面の不安を振り払っていく。グラウンドに出れば指先の感覚を取り戻すために短い距離のキャッチボール(ショートスロー)を繰り返し、そこで掴んだリリースの感覚を投球フォームに落とし込む。「とにかくブルペンで投げる球数は増えました」と柿木は振り返る。
ようやくイップスから解放されつつあったのが2022年シーズンだった。1軍の試合にも初登板した。だが、オフに待っていたのは1度目の戦力外通告だった。かつて強豪・大阪桐蔭で躍動した元エースは、育成契約の打診と2度目の戦力外通告をどう受け止めたのか――。
(後編に続く)
■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)