「踏切内に立たされた男性は、最後バンザイのような格好をしていたと報道で見ました。しかも、その様子を見張られていたとまで。直前には、川にかかる橋の上から飛び降りるよう強要もされたといいます。どんな気持ちだったのか。逃げるに逃げられず、最後は絶望の中で亡くなったのでしょうね。給与ももらえず、奴隷のような状況だったはず。私も同じ境遇でしたから、苦しさがわかります」(介護職の男性)
実はこの介護職の男性も、40代後半まで県内や首都圏の現場を転々とする土木作業員だったが、職場環境は「凄惨」そのものだったと振り返る。
「まず給与は手取り20万ほどですが、そこから会社の寮代が3万引かれる。寮といっても、会社内のプレハブ倉庫なんですけどね。給与は、仕事でミスをすると暴力を受けるだけではなく罰金まで告げられ、同い年の同僚は罰金で給与がマイナスになっていたこともあった。自分より10歳以上若い社長、さらに若い従業員からは叩かれたり、裸にされたりしていました」(介護職の男性)
つらい状況だったとはいえ、すでに立派な成人男性であれば、その場から逃げ出す、という選択肢もあったのではないか。筆者がそう指摘すると、男性は「生きるためには逃げられない」とうなだれた。
「手に職をつけなかった自分が悪い、といわれればそれまでですが、40過ぎまで建設現場を転々としてきて、気がつけば50歳手前で資格もない。となれば、大手はもちろん、中小建設会社からはお呼びがかからない。そういうわけで、もっと小さな会社、もっといえばモグリの会社に頼るしかなくなる。でもモグリでブラックの会社には、だいたい元不良の社長や上役がいて、我々のような中高年の作業員はいじめられるか搾取される。それでも、自宅も会社借り上げのアパートだし、給与も会社からもらわないと生活できない。生きるためのすべてを会社に握られており、逃げることは死ぬことと同じですから」(介護職の男性)
その職場でも、複数の中高年作業員が、仕事が遅い、などの理由で給与を取り上げられていた。それどころか、派遣先から支払われた給与の大部分を社長や経営陣が「横取り」もしていた。だが、搾取される中高年スタッフの誰もが「見て見ぬふり」をした。搾取される中高年のうち、やはり数人は、社長などから日常的に暴力を受けたが、みな「冗談」を装った。各々が「自分はいじめられていない」と自分に言い聞かせるように、叩かれても罵声を浴びせられても、金を奪われてもヘラヘラと笑顔を作るのだ。