珠洲は「家族を失った場所になってしまった」
一方で、直視できない現実もある。大間さん、そしてはる香さんの実家がある珠洲市には、「実は、ほとんど帰れていないんです」という。
「ものを取りに、3月に一度実家に行っただけなんです。震災後、復興もなかなかうまく進まず、9月には豪雨があって、また中学生の女の子の尊い命が失われてしまった。僕が小さい頃に過ごした、思い出の中の素敵な街からは姿を変えてしまったと、話に聞いてはいたんですけど。豪雨でものが流されていく映像は、見ることができなかったです。
妻と子供が愛した珠洲、能登なんですけど。復興してほしいというのは思うんですけど、でもやっぱり、自分の中では、家族を失った場所になってしまった、という気持ちも正直あって。好きだった思い出と、辛い思い出が共存する場所になってしまったんです」
1月1日の震災後、大間さんは土砂の下敷きになった家族の救出活動を何日も続けた。家族や親族の遺体が見つかるまでの5日ほどの日々を、「本当に、地獄だったんですよね」と振り返る。
「あの時間を、思い出してしまうんじゃないかと思って、なかなか帰れなかったんです。家族を全て失ってしまうかもしれないという気持ちのなかで過ごした時間はすごく長く感じたし、今も思い出してしまうことがある」
あれから1年。それでも次の元日は、「珠洲に帰ろうかと思っているんです」という。
「輪島市にある学校で、震災と豪雨の犠牲者の追悼をするイベントを、県が元日に企画していまして、それに参加しようと思っています。その日、天候次第ではあるんですけど、仁江町のほうにも行こうと思っています。
やっぱり、いつまでも向き合わないわけにいかないというか、今後生きていく上で向き合わなければいけないのかなと思います。妻のお母さんが、まだ体の一部しか見つかっていないんです。まだ、あの場所にいるので。お母さんに会いに行くというのと、おじいちゃんおばあちゃん、妻や子供も含めて、亡くなった人たちの魂も、まだあの場所にいるのかなと思って。1年の節目で、そういうことを感じようと思っています」