20代の大学院生もこう話す。
「研究の合間にちょうどいいんですよ、スキマバイト。それに、スキマバイトの時間は私にとってお金をもらうためにいるだけの死んだ時間ですから、なんと呼ばれようとそこの人間たちがどうなろうと知ったことではありませんからね。ドライに割り切れる人にはいいですよ。仮に店に殺人鬼が来たって一目散に逃げますし、赤の他人を助けたりもしません。アプリを通して来てるだけの『スキマくん』で構わないですよ」
いっぽう、40代の編集者に聞くと「絶対に嫌」とも。
「私も20代のころ失業したときにハケンやってた口なんで、あの時代の滅茶苦茶な派遣を経験すると二度とそういう口入れ屋には関わりたくないですよ。むしろスキマバイトのCM見ただけで思い出して嫌になる」
口入れ屋とは古くは奉公人の斡旋(まあ売買で構わない)をしていたブローカーのこと。ドヤの日雇労働では手配師とも呼んだ。性風俗では女を売買する仲介人の「女衒」が知られる。
昔からこうした仕事はあって、いろいろ言われながらも「派遣業」「スキマバイトサービス」として残っている。貧しい農村の娘を親から買って来てセリにかけたり直接店に売ったりの時代が約100年前まであった。
短絡的にそれといっしょだと言うわけでなく、現代でそんな人身売買が表沙汰(裏ではわからないが)になれば捕まる、そうして人は社会の倫理と規範というものを法と教育によってアップデートしてきた。労働者派遣法だってまだ不十分かもしれないが2000年代の滅茶苦茶な時代に比べれば改正されてマシにはなっている。
厚生労働省の強い要望により実現したとされる「106万円の壁」撤廃によって、厚生年金保険料の負担を嫌う企業や店は今後ますますスキマバイトに頼ることになるだろう。しかしスキマバイトがアプリでしかないとか、アプリに責任はないとか言っても雇うのは人、働くのも人、スキマバイトサービスの中の人たちも人だ。人であるかぎり、人としての責任からは逃げられないように思う。
そして人には感情がある。便宜上の呼び方であっても明らかにバカにした意味で「スキマさん」とか「お父さん」(スキマバイトの中高年を「おっさん」と呼ぶ居酒屋スタッフもあったと聞く)なんて呼ぶ人はやめて欲しい。スキマバイトサービスを使う側はその仕事のプロのはずだ、プロならそんなことをしない。
最後に、まだスキマバイトサービスは多くに指摘される通り問題点が多い。電動キックボードのシェアリングサービス同様、現状に即した法改正が求められる。
日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。