パリに行ったこともありました。撮影の合間に、主演の丹波哲郎さんがルーブル美術館に誘ってくれました。「おい、豪。ルーブルに行くぞ」って。ところが、私が館内をゆっくり観て回っていると、丹波さんはひとりでどんどん先に行っちゃうんです。そして、私はまだ下の階で観ているのに、丹波さんは上の階からトントン……と降りてきて、「ここは絵ばっかりで何もねえや。もう帰ろう」って出て行っちゃいました(笑)。
丹波さんは格好良くて、セリフを喋らせたらピカイチ。でも、セリフは全然覚えてこない。覚えてこないどころか、現場に来てから、東映から届いていた台本が入った封筒を受け取って、封筒をビリビリ破り、初めて台本を開くんですから(笑)。だから、台本はキレイなまま。それでも、一言喋らせたら独特の魅力がある。声が大きくて、面白くて。こんな人がいるのか、天才だ、と思いました。
丹波さんの奥さんも素敵な人でしたよ。私が若い頃、丹波さんのご自宅の近くを夜遅くたまたま通ったので、ちょっと挨拶を、とドアを叩いたんです。そうしたら丹波さんはいなくて、奥さんだけがいらした。当時、奥さんは身体が悪かったみたいなんですけど、「あなた、ご飯食べていないんでしょ」と言ってアッという間に料理を作って食べさせてくれました。焼き鮭とか簡単なものですが、とてもおいしかったです。
「言えないことばかりやっていました」
丹波さんが亡くなって20年近くになりますね。今年亡くなった共演者もたくさんいます。3月に81歳で天国へと旅立った寺田農さんは素敵な方でした。時代劇『付き馬屋おえん事件帳』(テレビ東京系)で山城新伍さんらと一緒に共演したんですけど、この時代劇の主役が、やはりこのあいだ亡くなった山本陽子ちゃん。このドラマの放送後、さらにこれを舞台にするというので、「ちょっと、やってくんない?」と電話をくれて。数か月間、一緒に旅をして回りました。男っぽい人でしたね。