原:そもそも自民党の旧安倍派が男系男子にこだわるのは、万世一系のイデオロギーを守りたいからだけでなく、天皇が大元帥だった時代への郷愁もあると考えています。戦時下における象徴として天皇を掲げたい。結局は“作られた保守”です。
河西:戦前の軍事国家的象徴が男性天皇で、それが目指すべき強かった頃の日本社会ということなのでしょう。国際的な競争力を失いつつある今の日本で、“天皇だけは”との考えがあるのかもしれません。中韓など近隣諸国に負けない国になるためには、精神的支柱である男性天皇を守り続けるしかないという信念です。
原:秋篠宮の会見は天皇家が永遠に続くと考える人たちに一石を投じました。今年は立ち止まって皇室の行方に思いを巡らせる年になりそうです。
河西:戦後80年が経ち、皇室にも様々な歪みが出てきています。秋篠宮の発言が真に問うたのは、このまま何も変わらず悠仁親王を天皇にしていいのか、という強い危惧だったのかもしれません。我々国民は、秋篠宮から深刻な問いを投げかけられたのだと思います。
【プロフィール】
原武史(はら・たけし)/1962年、東京都生まれ。政治学者。明治学院大学名誉教授、放送大学客員教授。著書に『象徴天皇の実像「昭和天皇拝謁記」を読む』(岩波新書)、『天皇問答』(奥泉光氏との共著、河出新書)など。
河西秀哉(かわにし・ひでや)/1977年、愛知県生まれ。歴史学者。名古屋大学大学院人文学研究科准教授。著書に『皇室とメディア「権威」と「消費」をめぐる一五〇年史』(新潮選書)、『昭和天皇拝謁記 初代宮内庁長官田島道治の記録』(共編、岩波書店)など。
※週刊ポスト2024年1月17・24日号