なぜ選挙人制度によって大統領を選ぶのか?
本連載ではこの選挙人制度についての解説を行なってきたわけであるが、「なぜこんなシステムをアメリカは採用しているのか」について、疑問に思う読者は多いだろう。しかし、これはアメリカの建国史と密接に結びついた、なかなか興味深い問題なのだ。
アメリカ合衆国は1776年、当時の北米大陸にあったイギリス植民地が本国から独立してつくられた国だが、その英植民地時代、すでにニューヨークやバージニアといった、現在のアメリカの「州」となる地域コミュニティは成立していた。ジョージ・ワシントンやジョン・アダムズといった建国の父たちは、あくまで自らが所属する、それらの地域コミュニティを独立させるため、イギリスとの独立戦争を戦ったのである。
これら北米大陸の地域コミュニティが無事にイギリスを退けて独立を果たした後、そこに州を取りまとめる“国家組織”をつくる必要を感じていなかった人々は、当時のアメリカに実際のところ、かなりたくさんいた。しかしながら、やはり各州の上部組織は必要だとの声もあって、「アメリカ合衆国」なるものは、かなりの妥協の末に成立した政府なのである。独立直後のアメリカ合衆国とは、強力な国家政府というより、現在のEU(ヨーロッパ連合)のようなものと一般にはとらえられていたし、初代大統領のワシントンも、自分が各州に強力な命令を下せるような存在だとは、特に思っていなかった。