アメリカのスポーツは社会階層で好みが分かれる
これはよく指摘されていることではあるが、現在におけるアメリカの野球人気は、実はアメフトなどよりも低い。最大の原因はアメリカの若者にとって、野球が“古臭いスポーツ”に見えることなのだそうだが、しかし逆を言えばアメリカにおいて、野球とはそれだけ歴史のある、伝統的なスポーツということだ。
ただ、“歴史”には必ず暗部が付きまとう。大リーグでは長年にわたって有色人種の選手に対する差別があり、かつては野茂英雄やイチローに差別発言が向けられたこともある。“古きよきスポーツ”ゆえに、オーナーになりたがるような名士や経済人も白人男性ばかりで、女性オーナーは歴史上も極めて珍しい。しかしすでに述べたように、特に近年、大リーグは優秀な外国人選手の存在を抜きに、語れなくなっている。
アメリカのプロ・スポーツとは、社会階層によって何を見るのかが、かなりはっきりと分かれる。例えばアイスホッケーは白人の金持ちが見るもので、プロレスはもっぱら中流以下の保守層が愛好する。そういうなかにおいて大リーグとは、「オーナー周辺の経営層、また古い観客は保守で、選手や新しい世代の観客はリベラル」といったことが、よく言われてきた。つまり、一つのスポーツにかかわる人たちの間で、ある種の“分断”が生じていたことになるわけだ。
ところで、今回の大統領選挙で勝利した共和党のドナルド・トランプは、以前から移民を規制すべしという主張を繰り返してきた人物だ。よって伝統的にアメリカに暮らす移民たち、特に中南米から来たヒスパニック系(大リーグ選手にも多い)は、移民に寛容な民主党を支持しているとされてきた。しかし今回の大統領選の結果を読み解くと、ヒスパニック系がかつてなく、トランプに投票していた実態が浮かび上がってきているのだ。例えばロイター通信は11月7日付で「トランプ氏返り咲き、ヒスパニックと労働者の支持上積みが原動力」という記事を出し、「今回の大統領選でヒスパニックのトランプ氏の得票率は男性が55%、女性が38%で、前回大統領選からそれぞれ19ポイント、8ポイント上昇した」と報じている。