ヒスパニック系の支持が民主党から離れつつある
この原因については現在、さまざまなことが言われているのだが、一つ挙げるべきこととして、「ヒスパニック系が民主党のリベラル姿勢についていけなくなった」ことがあるとされる。中南米からアメリカにやってくる人々は、確かに移民であるのだが、それと同時にほとんどが敬虔なカトリック信徒だ(中南米は世界的にも極めてカトリックの勢力が強い)。カトリック信徒たちは基本的に、道徳的な生活を重んじ、「妊娠は神の恵み」とするゆえに、人工中絶にも否定的だ。
最近のアメリカはこの「人工中絶をしていいのか否か」といった、ある種の“宗教論争”で政界が揺れている状況があり、共和党が中絶反対、民主党が中絶容認の立場だ。そのほかにも近年の民主党は、まるで“過激右派”たるトランプに対抗するかのように、その“リベラル度”を加速度的に上げてきた。しかしそれが、元来保守的な気風を持つカトリックの人々、つまりヒスパニック系に嫌われたのではないかとの分析がある。これまで移民をどうするかの文脈で、むしろ民主党はヒスパニック系に寄り添い続けてきた党なのだが、そういう意味では逆効果になってしまっているわけだ。
また、ヒスパニック系の人々は移民であるがゆえに低所得者が多く、アメリカの景気後退懸念、また世界的な物価高の状況などを見て、実業家としての経歴をアピールするトランプ支持に回ったともされている。ともかく確実なのは、今のアメリカのヒスパニック系は、かつてほど単純に民主党支持ではなくなっているという現実である。
そして一方、大リーグでは、まさに大谷翔平の存在に象徴されるように、「古きよき伝統的なアメリカの国技たるベースボール」が、「優秀な外国人たちがいないと成り立たない場」になりつつある。実際、選手の差別発言などにはかなり厳しい処分が下されるようになったし、「大リーグに真の多様性を」といったムーブメントも活発だ。
アメリカとは、さまざまな移民たちの流入が引き起こしたダイナミズムによって、ここまで大きくなってきた歴史を持つ国だ。そういう意味では、増えたヒスパニック票によって当選したトランプも、極東から大リーグに乗り込んで見事にMVPをつかんだ大谷も、そういうダイナミズムが生んだ存在なのだろう。
(了。次回掲載は1月20日予定)
※『ビッグコミックオリジナル』(小社刊)1月5日号より一部改稿
◆小川寛大(おがわ・かんだい)/ジャーナリスト。1979年熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2015年、季刊誌『宗教問題』編集長に。2011年より〈全日本南北戦争フォーラム〉事務局長も務め、「人類史上最も偉い人はリンカーン!」が持論。著書に『池田大作と創価学会』(文藝春秋)、『南北戦争』(中央公論新社)、近刊『南北戦争英雄伝 分断のアメリカを戦った男たち』(中公新書ラクレ)など。