浅野:その時に、今後は“女優”と名乗りたいと思ったんです。今では男女問わず“俳優”という言い方が主流ですが。
横山:俳優としてやっていける自信は、いつぐらいから湧きました?
浅野:20代後半、トレンディドラマと呼ばれる作品に何本か出演するうち、演技者としての自覚がほのかに芽生え始めました。
横山:浅野さんは、トレンディドラマの代名詞。『君の瞳をタイホする!』『抱きしめたい!』といった主演作品は、一世を風靡しました。
浅野:そんな流れの中で迎えた30代の10年間は、ただがむしゃらに、いただいた仕事をこなす日々でしたね。第2のアイドル時代みたいに、寝る暇もなく過ごしたものです。
横山:ご活躍でしたねえ。
浅野:そして、40代に差しかかる頃、ふと不安に襲われたんです。
横山:四十にして惑っちゃったわけですね。
浅野:その頃、仲良くさせていただいていた野際陽子さんに相談したんです。「手に職があるわけでもないし、資格を持っているわけでもない。私は、どんな風に生きていけばいいんでしょうか」って。
横山:その答えは?
浅野:「あなたは、一芸に秀でているんだから、それでいいの」。その言葉が、本当にうれしくって。
横山:NHKのアナウンサーから女優へと華麗な脱皮を遂げた野際さんの言葉、さぞかし説得力があったことでしょうね。
浅野:そうなんですよ。このまま続けていく自信をいただきました。
横山:浅野さんは、芸能生活50周年を記念するショーを開催しますよね。
浅野:そうなんです。東京と大阪の2会場で1回ずつ、「KANSYA」と題した公演を行ないます。
横山:楽しみですね。人前で歌声を披露するのは、相当久しぶりでは?
浅野:かれこれ、30年ぶりぐらいになるかも。これまで、ミュージカルのオファーもお断わりしていたぐらいですからね。
横山:めちゃくちゃレアな機会じゃないですか!
浅野:これは、私にとって一つのけじめ。ここで歌い納めて、51年目のスタートにしたいと思っています。
横山:そんなこと言わず、これからも歌い続けてほしい。お願いしますよ!
(前編から読む)
【プロフィール】
浅野ゆう子(あさの・ゆうこ)/1960年、兵庫県生まれ。1974年に『とびだせ初恋』で歌手デビュー。同年のドラマ「太陽にほえろ!」で俳優デビュー。1980~1990年代のトレンディドラマのブームを担い、1995年に公開の映画「藏」では第19回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作はドラマ「君の瞳をタイホする!」、「大奥」、大河ドラマ「功名が辻」など多数
横山剣(よこやま・けん)/1960年、神奈川県生まれ。1981年にクールスRCのヴォーカル兼コンポーザーに抜擢されデビュー。1997年春、地元本牧にてクレイジーケンバンド(CKB)を結成。これまでに数多くのアーティストにも楽曲を提供し、自他共に認める東洋一のサウンドマシーンとして活躍。ニューアルバム『火星』が発売中。火星ツアーで精力的に全国行脚中
構成/下井草秀 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2025年1月31日号