言わずと知れた「日枝さん」も御年87歳。フジテレビや産経新聞、ニッポン放送など傘下に持つフジサンケイグループの代表であり、フジテレビ元社長、現相談役でもある。「フジテレビの天皇」とも呼ばれ、2013年には旭日大綬章(旧・勲一等旭日大綬章)を受章している。それはそうだ、日枝さんが知らないわけがない。もちろん、「亀ちゃん」も。
ずさんで社会を舐めきったとされる会見と、肝心の当事者や当時の上が出てこないフジテレビの姿勢。これまでなら天下のキー局としてフジテレビデモだろうが大谷翔平の新居空撮だろうが意に介してこなかったはずが、ついに日本の名だたる企業70社以上がCM撤退、100社を超えるのは時間の問題で、それこそフジの番組はずっとACジャパンばかりが流れ続けるのは時間の問題だろう。通販番組すら逃げ出しかねない事態だ。
それでもこういう意見もあった。コンテンツも手掛ける広告代理店の40代プロデューサーの話。
「放送免許の取り上げはないしその必要はないと総務省も言ってますからね。実際に放送法や電波法に抵触したわけじゃない。あくまで倫理的な問題で刑事事件化もされていないわけですからね。放送免許を持つフジテレビという器が残る限り新たなスポンサーやコンテンツが持ち込まれてくることでしょう。イメージなんてそもそも気にしてないしテレビに出られればどうでもいいよという会社やタレントはいくらでもいるし、そういうイメージに無頓着どころか『それくらいいいじゃない』『そういうコンプラが面白さを無くす」って視聴者もいる、SNSにだっていくらでもいる。それに、ほとぼりが冷めれば普通に営業できるのはこれまでの大企業のパターンですからね。もっとも、CMの売上そのものは激減するでしょうが、フジテレビは『お台場不動産』で莫大な資産を保有していますから」
大山鳴動して鼠一匹とまでは言わないが、果たしてフジテレビの姿勢で切り抜けられるのか、いまや日本政府より怖い海外の投資ファンドが手ぐすねをひいている。そしてスポンサーだけでなくコンテンツも逃げ出しかねない事態になりつつある。いま放送している作品はともかく、アニメーションをフジテレビで放送すると言って原作者やそのファンが納得するのか、いまやコンテンツホルダーやその「推し」と放送局の立場は逆転している。ただ「放送免許」のみがフジテレビを守っていると言っても過言ではない。
かつて「母と子のフジテレビ」として『鉄腕アトム』をはじめ『ママとあそぼう!ピンポンパン』『ひらけ!ポンキッキ』といった知育放送局の顔もあったフジテレビ、中居氏も引退したいま、このままでは誰からも愛されないテレビ局になりかねない。そして、いずれ他のキー局も対岸の火事では済まなくなるであろうこともまた、確かなように思う。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。