鈴木容疑者が実行犯としてうってつけな理由
今回の事件は2016年に起きた事件の報復だろうか? かつて『マル暴』だった警視庁の退職警官が語る。
「昭和の抗争は即座に報復するのがセオリーだった。身内が殺されると、ヒットマンは葬儀にすら出席せず地下に潜った。対して現代の抗争は『忘れた頃に報復する』スタイルに変化している。暴力の代償が大きいので何度も攻撃できないし、確実な戦果を上げるため、相手の油断を待つ必要があるのだ。とはいえ、今回はあまりにも期間が空きすぎている。2016年の報復なのか断言できない」
何者かに依頼されて事件を起こし、報復を偽装した可能性もあるという。車両が突っ込んでも器物損壊程度で、いきなりトップの命を狙うとは考えにくいからだ。加えて当事者同士に遺恨があれば、裁判になっても「自分のメンツを回復するために報復した」という犯行動機にリアリティが生まれる。
「抗争事件では、組織の上層部に責任を波及させないよう、細心の注意を払わねばならない。六代目山口組のために事件を起こしたと判断されないよう裁判を戦うには、破門者である事実と、かつての遺恨はうってつけの材料」(同)
もしも老齢のヒットマンが何者かの指示で神戸山口組関係者を殺したとしても、積年の恨みを晴らしたと供述すればいい。裁判用の調書はその筋書きで巻ける。
とはいえ、狙ったターゲットが拠点に籠もってしまうと簡単には襲撃できない。昭和の山一抗争では、四代目竹中正久組長が殺害された後、殺された親分の子飼いである竹中組組員が執拗に一和会トップの命を狙った。仇討ちに執念を燃やす現山口組若頭補佐・二代目竹中組・安東美樹組長は、要塞化した自宅に籠城する一和会会長に対し、ロケットランチャーを発射したが失敗している。
令和の時代、さすがに住宅街で重火器は使えないだろう。そんな無軌道はできっこない。しかし、手をこまねいていたら時間だけが過ぎ去っていく。六代目山口組トップの司忍組長は、今年の1月25日に83歳を迎えた。膠着化した局面を一気に変えようと、分裂抗争が過激化する可能性はある。
◆取材・文/鈴木智彦(フリーライター)